第10話 龍都ロンラン


 俺は勇者だ…。決して執事などでは無い。


 俺は人に頭を下げた事など数百回くらいしか無い。

 そんなのは俺のプライドが許さないのだ。


 「アイス様、この後はどうなさるおつもりで御座いますか?」


 「モグモグ…そうじゃのう……。あの侵入者は中々やるからのぅ……。ムシャムシャ…一度龍都に帰り、応援を頼むのじゃ……ゴックン。本当ならアイス一人でもいいんじゃがのぅ、確実を持つ為には仕方ないのじゃ。」


 この強がりわらべが!怖いなら怖いと言いなさい!


 「左様で御座いますか。では案内をお願い出来ますか?なにせ私、旅の者でございますので、この辺の地理には疎いので御座います」


 「任せるのじゃ!アイスの言う通り進むのじゃぞ?……ヨイショヨイショ。さぁ行くのじゃ!」


 何勝手に人をアッシー君にしてんじゃ!

 お前がドラゴンになって運ぶパターンだろが!


 「アイス様……。誰もおんぶしてあげるとは言ってないのですが?」


 「いいから行くのじゃ!ハイヨーシルバーなのじゃ!このまままっすぐ行けば着くのじゃ!100里くらいなのじゃ!」


 えーと、1里が4キロ位だから……。400キロ位か……。

 遠すぎだろ!

 

 走れってか!400キロ走れってか!

 やってやろうじゃねぇか!うおぉぉぉぉ!!


 「す、凄いのじゃー!!もっと早く走るのじゃー!!いいぞなのじゃー!ファルケン!」


 クソ!この子供の無邪気さ……。

 怒るに怒れないぜ!


 世の中の親御さん達……子育てお疲れ様です!


 それから俺は走り続けた。

 雨の日も風の日も走り続けた。

 6時間も経っただろうか、やっと龍都の大門が見えて来た。


 「ーー様。ーーイス様!アイス様!着きましたよ!起きて下さいアイス様!!」


 この童がぁ!!人の背中でスヤスヤ眠りやがって!

 揺らさないで走ったから余計時間が掛かったじゃねぇか!


 「むにゃむにゃ……。ふぁーよく寝たのじゃ!おっ!?もう着いたのか!早いのぅ!なかなかやるのじゃファルケン!流石はアイスの執事なのじゃ!」


 この童には執事の仕事について一から教えねばならぬな。


 俺がいなくなった後に大変な事になりそうだ…次の執事が。


 「アイス様……。私は旅の者なので身分を証明する物を持っていないのですが、大丈夫でしょうか?」


 「むふふ。大丈夫なのじゃ!アイスなら顔パスなのじゃ!だからアイスの執事も顔パスに決まってるのじゃ!褒めるのじゃ!」


 おーヨシヨシヨシヨシ、偶には役に立つ童じゃないか。


 童の頭を撫でながら門番に近づくと、そりゃもう凄い勢いで止められた。


 『子供を離せ!変態め!不気味な仮面をつけよってからに!』


 あ、あれ?顔パスどこいった?

 頼む!勝手にいなくならないでくれ!

 

 「誤解で御座います!この顔をよーく見て下さい!何か見覚えは!?」


 俺は童のほっぺを掴み、門番によーく顔を見せる。


 『こ、これは!?』


 そうだろうそうだろう。一応この童はお前の国のお偉いさんだろ?

 

 早くひれ伏せ!ハハハハ!


 『な、何と言うほっぺの伸び……。まるで餅……。いや……とろけたチーズ……』


 『いや!これはあの伝説のスライム…エンジェルスライムくらいの弾力もありそうだ……』


 え?あっ!?やべ!焦り過ぎてほっぺた凄い事になってるぅ!


 悪魔の実もビックリするくらい伸びてるぅ!


 「ファ、ファルケン……。痛いのじゃ…。離してくれなのじゃ……」


 「も、申し訳御座いません、アイス様!すぐに治療致します![神滅燼滅勇者式再生法治れ]!」


 『アイス様だと!?貴様!アイス様になんて事を!』


 『我等が御姫様おひいさまに何をしてくれとんじゃ貴様ー!』


 ひ、ひぃ!許してつかぁさい!助けて童!


 「ま、待つのじゃ!此奴はアイスの執事のファルケンなのじゃ!手出しは許さぬのじゃ!」


 童……素敵……。かっこいい…。


 『ア、アイス様がそうおっしゃるなら…従う他ありません。』


 『ですが御姫様おひいさま!此奴は一体何者ですか!?せめて仮面だけでも取って頂かないと入国させられませぬぞ!』


 テメェ童!顔パスの話はどうなってんだ!?


 「此奴は旅の執事のファルケンなのじゃ……。アイスが雇ったのじゃ……。だから顔パスではだめかのぅ……?さっきカッコよく顔パスでいいと言ってしまったのじゃ…。」


御姫様おひいさま…顔パスもなにも、仮面を取らなければ顔パスになりませぬぞ?なにせ顔を見せて貰ってないのですから』


 童っ!……ハっとした顔でこっちを見ないでくれ!

 クソ!どうする?このままでは俺がさっきの侵入者だと、童にバレてしまう……。


 ……変顔で乗り切るしか無い。


 「そこまで言われては仕方ありません……。ですが私は生まれつき変わった顔をしておりまして。決してふざけてる訳では無いと先に言っておきます。……では外しますよ」


 俺は渾身の変顔を披露する。

 

 ………どうなんだよ!いけてるのか!?

 あっ!門番テメェ!笑いを堪えてんじゃねー!

 

 童は……。お前もか!我慢し過ぎて鼻水でてるじゃねぇか!


『……ぷ!……ゼェゼェ……。ず、ずまなかった!早く仮面を付けてくれ!』

 

 『も、申し…わけ…ププな…い!次からは…ブハっ!外さ……なくて……い…い!』


 て、てめぇら!好き勝手笑いやがって!俺も好きでしてる訳じゃねぇんだよ!


 「か…母様…アイ…スは…もう駄目…なのじゃ…ヒューヒュー……偉大なる……龍人族の…死因は…笑い…死になの…じゃ……。ガハ!」


わ、童ー!死ぬなー!っていつまでやんねん!


 「と、とりあえずこれで入国してもよろしいのでしょうか?」


 『あ…ああ、よ…よう…こ…そ龍都…ロンラ…ンへ……。ブフッ!』


 

 やっと入れるよ!行くぞ童!早く案内しろ!

 

 

 いつまでも笑ってんじゃねぇー!


 

 

 

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