第9話 疾風怒涛


 クソ!何故だ!どうしてこうなった!


 

 俺は今、東大陸にある龍国に向かって飛んでいた。


 ビスマルク将軍を仲間にした後、一度ガルランド王国に戻り様子を見に行ったが、議会は全く進んでいなかった。


 何故、彼奴等は同じ事を何度も繰り返すばかりで、前に進もうとしないのだろう…。


 同じ事で言い争う貴族達に飽き飽きした俺は議会を退席し、世界を周ってみる事にした。


 「あの様子ではまだしばらく時間がかかるだろう…。一度魔王城に戻るか?…いや一度世界を見て周り、魔王に聞きたい事を整理してからの方が良いだろう」


 なら行動あるのみだ、まずは東大陸を支配してる龍国だな。

 

 「勇者式超加速飛行砲とべ!」


 しばらく飛んでいると、だんだん東大陸の全貌が見えて来た。


 まるで一頭の龍を型どったような形をした大陸だ。

 

 「凄いな…。絶景とはこの事だ。…よし、まずはどこかの街で情報収集だな」


 いざ大陸に降り立とうとすると、巨大な山の頂上から一頭の龍が俺に向かって高速で飛んで来た。


 「なんてデカいドラゴンなんだ…。言葉は通じるかな?…えー、ハウアーユー?」


 「この大陸へ侵入しようとする不届者め…。しかも翼も無しに空を舞うとは…貴様、邪神の手の者だな!滅ぼしてくれる!」


 そう言うとドラゴンは口から魔法陣を何層も精製し、ブレスを放とうとして来た。


 「おいおい、コイツは穏やかじゃないね。躾けが足りてないみたいだ…[覇王抹殺勇者直伝愛の拳お座り]!」


 俺はブレスを放とうとしてるドラゴンの頭の上に高速で移動しておもっいきり拳骨を喰らわせる。


 ドラゴンは遥か上空から真っ逆様に落ちていく。

 巨大な木の枝を何本もへし折り森の中に墜落したみたいだ。


 「あちゃー、もしかしてやり過ぎたかな?大丈夫だよね?ドラゴンだもんね?」


 俺はすぐ様ドラゴンの元に飛んで行った。

 何かあればすぐに治してやるからな!


 しかしドラゴンが落ちた場所にその巨大な姿は無く、一人の黒髪のおかっぱの幼女が頭を手で抑えて泣いていた。


 「痛いのじゃー!うえーん!お母様ー!!びえーん!!」


 これはヤバいやつや!

 どうにかせにゃならん!!


 俺はすぐに勇者専用アイテム袋から黒い仮面と執事服を取り出し装着する。

 

 ついでに声も変えて…あーあー、よし!


 「だ、大丈夫ですか!?何があったんですか!?うわ!こりゃ凄いタンコブ…ププ、いえ何でもありません、すぐに治療しますね。[神滅燼滅勇者式再生法治れ]!」

 

 思わず最上級の回復魔法を使ってしまったが…まぁ大丈夫だろう。

 せめてものお詫びという事で。


 「す、凄いのじゃー!もう痛くないのじゃ!お主!誰だか知らんがすまんのぅ!だが今の魔法からうっすら神気を感じたような……」


 「もう大丈夫みたいですね!では私はこれで失礼します!さらば!」


 あぶねー!流石は腐ってもドラゴンだな。

 俺の正体が勇者だってバレるじゃないか。

 

 …いやバレてもよくない?まぁいいやとりあえず逃げよう…な、なにぃ!誰かに掴まれてる感触が!


 「待つのじゃ!逃さんのじゃ!こんな森にこんなにかわいい童を放っていく気か!!」


 こんなにおっかない童がいるか!どう見てもさっきのドラゴンだろが!森よりお前の方が怖いわ!


 「め、滅相も御座いません。私、旅の執事のファルケンと申します。以後お見知り置きを。…で、こんなにかわいい童さんはこの森で何をしていたのですか?」


 旅の執事ってなんやねん…。


 「こんなにかわいい童は名詞ではないのじゃ。私の名はアイスじゃ!宜しくのぅファルケンとやら!」


 美味しそうな名前ですね。


 「これはこれはご丁寧にありがとうございます。これはお近付きのどら焼きで御座います。粗茶もどうぞ」


 「ふぉー!これは美味いのじゃ!褒めて遣わすぞファルケンとやら!あっ!?なぜアイスがこの森にいるかの理由じゃったな?実はアイスはこの大陸を守護する一族の末裔でな、今凄い強い侵入者と闘っておったのじゃ。結果は引き分けと言ったところかのぅ〜」


 何が引き分けだ!ボロ負けの間違いだろが!


 「それはそれは、そんな高貴なお方だとは気付かず申し訳ありません。…ですがその侵入者はどうなったのですか?放っておいてよろしいので?」


 「モグモグ……はっ!?そうじゃった!このドラゴン焼きが美味しすぎて忘れてたわ!えーい!このドラゴン焼きめが!こうしてくれる!モグモグムシャムシャ……」


 …どら焼きで御座います。


「アイス様…それは結局食べてるだけで御座います。…ですがもう大丈夫そうなご様子ですね。執事ファルケンはここで失礼致します」


 そろそろ勇者ファルケンハインに戻りたいからな。


 「まぁ待つのじゃ!お主見たところなかなかやるようじゃのぅ!それに執事なのじゃろう?ならアイスに仕えるのじゃ!これは強制じゃ!」


 「いえいえ、私なぞまだまだ修行中の身。高貴なこんなにかわいい童様に仕えるなど、とてもとても……」

 


 「……そうか。では行くとするのじゃファルケン!」


 

 ……冒頭に戻る。

 

 

 

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