第8話 和平に向けて
俺は勇者だ!絶対に負ける訳にはいかない!
俺が負ける事は、人類が負ける事に等しい!
だから勝つ!いや勝たなければならない!
「…王手!金銀飛車角桂馬香車歩取りだ!」
「むむ!やりますな勇者殿。…だがしかーし!必殺の5五角!これで決まりですぞ!」
な、なに!逆王手だと!…この盤上全てを睨んだ角の威圧感…負けだ…。
「…参りました。流石は将軍だな、一体何手先まで読んでいるのやら」
「なに、伊達に十数年も将軍をやっておらんでな。だけど勇者殿、こんな所で遊んでいてよろしいので?やる事があるのでは?」
「なーに、やっちまったな…じゃなかった、なーにこれも仕事の一つさ。ビスマルク将軍は70歳だったな?ハーベストの大災害の時には従軍していたのか?」
将軍は歴史の生き証人だからな。
話を聞かない手はないぜ。
「……これまた懐かしい話をしなさる。ああ、儂もいち士官候補生として従軍しておったわ。あの日の事は今だに鮮明に覚えておるよ。さて、何を聞きたいので?勇者殿……」
「単刀直入に聞く。このまますんなり和平交渉が上手く行くと思うか?いや…将軍は魔族を許せるのか?」
「……我々は国に仕える兵士だ。国がそう命令するなら従わねばならぬ。だが…許せると言えば嘘になるであろうな……」
……だよな。理由は聞くまでないな、将軍の友人や大切な人が大勢失われたのだろう…。
「なぜかと言うとな!あいつら儂の初陣の時にメッチャ煽ってきたんじゃ!なーにが「ヘイヘイ人類ビビってる♩ヘイヘイヘイ」じゃ!
ち、違ったー!メッチャしょうもない事で怒ってたー!
「しょ、将軍の気持ちは痛いほど分かるよ。でもなんとか和平に向けて協力して貰えないだろうか?」
全く分かんないけど。気持ち全く分かんないけども。
「…儂はな、実は前の勇者様に剣を教えてもろうた事があるんじゃ。彼はまさに人格者じゃった…。だがあの日!ハーベストが襲来したあの日!魔王を退けるために大魔法を放ったあの日じゃ!…彼は失われてしまった。その時の儂の気持ちが分かるか?勇者殿……」
ああ、将軍…分かるさ。
俺もいくつもの世界を救って…
「…分からんか。その時、儂は誓ったんじゃよ必ず仇を取るとな。だが、あれから魔王は現れず、魔族達は自然の要塞に立て篭もり、年に数回、小競り合いを仕掛けて来るだけになってしもうた。それから数十年……儂は将軍にまで駆け上ったが、もうヨボヨボの爺ィじゃ」
まだ俺が心の中で喋ってるでしょうが!
「……そうか。まぁ無理強いはしないさ。最近この世界に来た俺が、長年この世界を生き抜いて来た人の思いを、踏み躙る訳にはいかないからな。……だが俺は必ずこの戦争を終わらせる。だから将軍…貴方が反対するなら、その時は受けて立ちます」
勇者に二回も敗北は許されないんだ!
「ふははは、まだまだ青いのう!かかって来い勇者!」
行くぞ![召喚憑依]ハブ・ヨッシーハルト!
ふふ、俺が前にいた世界の名人の一人だ。
これで俺に負けはない。悪いな将軍。
「むむ、さっきとはまるで差し手が違う…。だが、まだまだこれからですぞ」
なに!?何故だ!何故引き離せない!
局面は互角…そこまでの差し手の一人だったのか将軍?
…いや違う。見える…見えるぞ!お前の後ろにフジィ・ポータの姿が!
まずい…この対局には世界の平和がかかってると言うのに…。
「ところで勇者殿、先程の話なんじゃが儂は協力しても良いと思っておるでな」
…むむむ、対局中に喋るなんてマナー違反…えっ?なんだって?あっ、しまったー!ニ歩だ!負けたー!
「本当にいいのか将軍!?将軍に二言は無いぞ?」
「解っておる…だが条件がある!儂はこの数十年の間、ずっと不可解に思っておった。魔族が一体何を目的としてこの不毛な争いを続けるのか…。これをハッキリさせて貰わねば前の勇者殿も死にきれんわい」
…それは俺も思ってはいた。
魔王のあの様子ならいつでも戦争を辞めてもよさそうなものなのに。
自分の意思では無い?…前の魔王…いやまさか邪神?
ダメだ。考えても分からん。
「将軍、任せてくれ。必ず理由を本人の口から説明させ、謝らせる。だから一度だけ俺を信じてくれ」
「…約束じゃ。軍部の事は儂に任せておけ。それと儂の力が必要な時にも頼るがいい」
これで百人力だ!早速力を借りたいんだ将軍!
「待ったはダメじゃぞ……」
チッ、使えねぇ爺ィだ。
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