第6話 戦争の歴史
オリビアから上手く逃げ出した俺は、誰も居なさそうな部屋で一息ついていた。
「ふう、今思えば魔王の城に乗り込んでから一回も休んでなかったな。何か飲み物でも出すか」
俺は勇者専用アイテム袋からコーヒーを取り出す。
カフェイン中毒の俺はコーヒーが手放せないのだ。
「うーん……いい香りだ。コーヒーはブラックにかぎるな」
「………勇者、私にもちょうだい」
「うお!ビックリした!いつから居たんだエマ!?」
「……勇者が勢いよく扉を開けて、コーヒーをその袋から取り出した所から」
つまり最初からじゃねぇか。
「いいかエマ……。人間ってのは生まれてから死ぬまでの間、心臓の鼓動の回数はおおよそ決まっているんだ。お前のせいで確実に俺の寿命は縮まったぞ?」
「……こんな事で縮まるなら勇者はもう死んでる。それにこんな存在感のある私に気付かない方が悪い」
なにが存在感のある。だ!お前なんか納豆についてる辛子くらいの主張しかしないくせに!
……いや結構存在感あるな。
「まぁ、俺が悪かったよ。ほらお子様には甘々のカフェオレだ。熱いから気を付けてな」
「……私はお子様じゃない、これでも二十歳のレディ。……勇者は見る目がない」
やめろやめろ、小さな魔力弾をペシペシ飛ばすな。
「そうだ、エマには聞きたい事があったんだよ。魔族と人類の戦争の歴史について知りたいんだが、エマはそう言う事に詳しいのか?」
「……まぁ、それなりに?一般常識程度なら知ってる。カフェオレ分くらいなら話してあげてもいい」
ぐぬぬ、なんてケチな娘なんだ。
「じゃぁ悪いけど頼むよケチ‥じゃなかったエマ。聞きたいのは戦争が始まった理由なんだけど、エマは知っているか?」
「……詳しくは知らない。だけど戦争の記録が書かれた書物が軍にあったはず。多分機密事項だと思うけど」
「そうか……。なら将軍に頼むか」
俺が立ち上がると、不意に部屋のドアが開かれた。
「おお、ここに居られましたか勇者様!このクロイス、探しましたぞ!オリビアとは上手くいったのですか?」
「クロイスか……。勿論上手くいったよ。今は休憩してた所だ。そうだクロイスはこの戦争が始まった理由を知ってるか?…ケチ……じゃなかった、エマは知らないみたいでな」
「ええ、勿論知ってますとも!エマ、貴女はそんな大事な事も知らないのですか?そんな事では勇者様に仕えるには足りませんよ?」
「…………そんな事を知ってもお腹は膨れない、それに勇者に仕えた覚えもない」
やめろやめろ、バチバチ目線を飛ばすな。
「じゃあクロイス、ザックリとでいいから教えてくれるか?……ほらコーヒーだ、砂糖はお好みでな」
「ありがとうございます勇者様。戦争の記録が書かれた書には、太陽歴566年に魔族は海を渡り、いきなりこの中央大陸に攻めて来たとあります。それまでも度々魔族は中央大陸で目撃されてはいたのですが、被害が出た事は無かったそうです」
「偵察でもしてたのかもしれないな、それで肝心の攻めて来た理由はなんなんだ?」
「はい、これも書物に書かれている事なので確かではありませんが、当時捕らえた捕虜の証言によると、『邪神の加護を得た』と皆口を揃えて言ったそうです」
邪神……邪神ね。
「それで、それからどうなったんだ?書物にはなんて書かれている?ああ、おおまかでいいぞ」
「はい、当時魔族の攻勢はとても激しいものだったらしく、人類は押されに押され後退を余儀なくされました。そして今も見てわかる通り、ヒッポ山脈からこっちクリフ大森林を占拠されました。まぁ、元々人類が生存できる場所ではありませんが」
「でもまぁ、よくそれだけの被害ですんだな?話を聞くだけじゃ国を支配されてもおかしくはないじゃないか、どうやってそれ以降魔族を退けたんだ?」
「………その理由なら私も知ってる。答えは……勇者召喚」
「そうです。当時の女神教の聖女に神託が降り、勇者召喚を行う為の召喚陣を授けられたようです。しかし当時の勇者と魔族の王の力は全くの互角だったらしいのです」
成る程な……。それがこの戦争が長引いた理由か。
「それならまた勇者を召喚すればよかったんじゃないか?」
「……それが、勇者召喚は膨大な魔力を必要とする為、それが貯まるのに100年くらい掛かるらしいのです。始めの召喚には女神様が力を貸してくれたとあります」
そうか、それで100年後の今、俺が呼ばれた訳か。
「それで前の勇者はどうなったんだ?もう亡くなったのか?まあ、流石に100年も生きてはいないよな?」
「前の勇者様は、60歳の時に戦時中行方不明者リストに名前が入ったそうです。勇者様が召喚されてから45年経ったときに魔族の大進行がありました。」
「…………ハーベストの大災害」
ハーベストの大災害?なんじゃそりゃケチ娘。
「魔族は魔大陸から伝説の魔物ハーベストを連れて来たのです。ハーベストは山の様に大きくスライム状の見た目をしていたと記録されています。それを迎えうったのは王国、帝国、聖国の合同軍とあります」
そんな魔物がいたとはな、ってか結構魔族やらかしてるな。
これは終戦の話し合いもすんなりいかないかもな。
「それからどうなったんだ?ハーベストは倒せたのか?」
「結論から言いますと、討伐は成功したみたいです。大勢の死者が出たみたいですが…。満身創痍でハーベストを倒した勇者の前に魔王が現れ、年老いた勇者は自分の死を悟り、最後に大魔法を放ち、魔王を退けたそうです。魔法を放った後、勇者の姿は無かったみたいですね……」
それで戦時中行方不明ね……。おそらくはもう…。
「そうか……。前の勇者には頭が上がらないな。勝手に呼び出されて、死ぬまで戦うとは……」
だが、いやだからこそ俺がやるべき事は彼が掴めなかった平和を築く事だな。
「はい……。私もそう思います。彼の死を世界中が嘆いたとあります。勇者がいなくなった事により、魔族の勢いが強くなると思われたのですが、それから魔王の姿を見る事はなかったそうです。後はご存じの通り膠着状態が続いていたというわけです。」
魔王の城に前の魔王はいなかったな、後でドゥルキスに聞いてみるか。
「ありがとうなクロイス。どこかの娘と違って役に立つじゃないか。どこかの娘と違って」
大事な事だからな。
「ありがとうございます!このクロイス、勇者様の役に立てて光栄です!」
「……………勇者、それは違う。私の方が役に立つ」
やめろやめろ、高速で魔力弾をペシペシするな。
「それでお前達、今の話を聞いて一筋縄では終戦の話し合いが上手くいかない事が分かった。だから協力して貰いたい、この通りだ」
俺は頭を下げる。
「………私は役に立つ女。頭の角度をあと10度下げるなら協力してもいい」
よし、こいつは後でシメる。
「あ、頭をお上げください!このクロイス、何でも致します、勇者様!」
「ありがとう。そうだな、お前達には……」
必ず平和を掴み取るぜ、だから安心して眠ってくれ前の勇者。
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