第4話 前線基地

 俺は今巨大な砦の前に立っている。

 

 

 ガルランド王国の辺境の地、スパーク領に魔族と長年睨み合いを続けている砦がある。


 俺が魔王の城に乗り込むまで滞在していた場所だ。


 だが、前線といっても年に数回小競り合いがあるだけで、大規模な進行はもう何年も無かったらしい。


 まぁ、俺が来てからは魔族側の陣が段々と後退して行ったがな。


 ふと上を見ると砦の物見に二つの人影が立っていた。

 

 「勇者ー!今までどこ行ってたのよ!命令も無しに砦を離れるなんて!軍法会議ものよ!」


 このキャンキャンうるさいのは戦士のオリビアだな。


 「勇者様!ご安心を!この賢者クロイスが取りなしておきました!」


 クロイスは相変わらずだな。

 こいつは何かと俺に気を使う奴だ。

 

 「ここじゃ話しにくい!砦の中で話そう!それとクロイス、軍議室に将軍も呼んできてくれ!」


 「かしこまりました、勇者様!クロイスにお任せあれ!」

 

 「ちょっと勇者!話はまだ終わってないわよ!早くこっち来なさいー!」


 うるさい奴だ。中で話そうって言ってるじゃないか。


 俺もジャンプで砦を飛び越え、中にある軍議室まで急ぐ。


 毎回迷いそうになる廊下を走っていると、青髪にとんがり帽子とローブを着た女の子が待ち構えていた。


 「………ジー」


 「ど、どうしたエマ?なにか用か?」


 「………勇者いなくなった。………ジー」


 「急に居なくなったのは謝るよ。これからその事について話し合うのだが、エマも来るかい?」


 「…………行く」


 ふぅ、この子はマイペースで不思議ちゃんだから扱いが難しいな。


 能力は抜群なんだが…。


 しばらくエマと迷いながら歩いてると軍議室の扉が見えて来た。


 中からは複数人の話し声が聞こえてくる。

 俺はノックをしてから扉を開ける。


 「すまない待たせたな。迷ってしまったよ」


 中にはオリビアとクロイス、それに将軍ビスマルクとその取り巻き数人が座っていた。


 「そんな事はどうでも良い。勇者よ、今までどこに行っておった?答え次第では処罰せねばならん」


 顔中傷だらけの厳つい将軍が圧をかけて来る。


 「そうよ!勝手に居なくなるなんてダメなんだからね!決まりなのよ!?戦争中なんだから!」

 

 オリビアうるさい。

 

 「勇者様!私は信じておりました…必ず帰って来ると!」


 「ふぅ、みんな言いたい事があるだろうが後にしてくれ。とりあえず戦争は終わりだと言う事だけ伝えておく。いまガルランド王が貴族達を集め議会を開く準備をしている」


 「う、嘘よ!そんな簡単に百年も続いた戦争が終わる訳無いじゃない!バカにしないで!」


 オリビアうるさい。


 「勇者よ…我々も、はいそうですかと頷く訳にはいかぬ。何か証拠はあるのか?」


 「ああ、この短剣を見てくれ。これ以降全ての作戦の中止を命令する。俺に逆らうのは王に逆らうと同じ事だと思ってくれ」


 「太陽に黒いライオンの紋章…これは王家の……。承知した、勇者殿。命令に従い全ての行動を中止し、砦にて別命あるまで待機する」


 渋々ではあるが従ってはくれるみたいだな。

 この短剣が無かったらまだ時間がかかった事だろうな。


 「流石は勇者様です!一体この短期間にどうやったら戦争を終わらせられるのですか!?」


 「そ、そうよ!勇者、あんた何をして来たのよ!教えなさい!」


 オリビアうるさい。


 「なに、そう難しい事はしてないよ。魔王の城に乗り込んで、魔王のいる玉座の間に辿り着いたらな、魔王が世界の半分をくれるって言うから貰って来たんだよ」


 部下になった事は内緒だな、面倒くさそうだし。特にオリビアが。


 「ふ、ふざけんじゃないわよ!大体、魔王のいる魔大陸なんて海の向こうじゃない!どうやって行ったのよ!


 オリビア……うるさい。


 「そりぁ勿論飛んで行ったよ。今は転移陣を設置して来たからな、転移し放題だ」


 「ああ、流石は勇者様…。我々の常識など貴方にとっては取るに足らない物なのですね。このクロイス涙で前が……」


 「とりあえず、将軍はすぐに行動に移ってくれ。終戦が決まった以上、人類側にも魔族側にも犠牲を出す訳にはいかないからな」


 将軍は数秒間目を瞑った後、静かに頷いた。


 「分かった、すぐに命令を出す。おい、お前達聞いていたな?動け!」


 将軍の取り巻き達が逃げるように軍議室から出て行った。


 「ねぇ勇者…本当に戦争は終わったの?嘘よね?だって私戦う事しか知らないのよ?これからどうすればいいの?」


 「ふっ、オリビア……うるさい」

 

 し、しまった!心の声が!

 

 「うるさいってなによ!私は真剣に悩んでるのに!勇者の馬鹿!もう知らない!」


 オリビア違うんだ!これは心の声が出ただけ…あー行かないでくれ!


 「……………勇者最低」


 「勇者様……流石に今のは擁護の仕様がありませんでした。このクロイス、伏してお詫びします」


 違うんだみんな!これには訳が!口が勝手に!


 「勇者殿……すぐに追った方が良いのでは?」


  将軍…そうだな、これは俺のミスだ。


 「ああ、皆すまない。行ってくるよ!」

 



  もう俺の馬鹿!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る