第6章134話:決着

ルミが剣を持って立ち上がる。


ゆっくりと、チサトンのほうに歩いていく。


チサトンは、言った。


「ホンマに強かったわ」


そして、清々しい微笑みを浮かべて、告げる。


「ここまでやっても届かんとはな……完敗や」


「いえ」


ルミは言った。


「チサトンさんは、すごい剣士でした。本当に、いろいろ、勉強になりました」


ルミは、剣を構える。


それを思いきり振りぬく……ことはせず、こつんと、チサトンにぶつける。


チサトンは、仰向けに倒れた。


終幕である。


審判がステージに上がり、確認した。


「チサトン選手、まだ戦えますか?」


「いいや、戦えん」


チサトンは答える。


「降参や。ウチの負けや」


「そうですか」


確認を済ませた審判が手を上げた。


「チサトン選手、戦闘不能により、ルミ選手の勝利とします!!」


そう審判が宣言する。


次の瞬間。




「「「―――――――――!!!」」」




割れんばかりの歓声が上がった。


ルミは、ビクっとしてしまう。


そして、驚いた。


自分が勝って、喜ぶ観客なんて、ほとんどいないと思っていたからだ。


ところが、多くの人が勝利を言祝いでくれていた。


歓声が降り注ぐ。




「うわあああああああああああああああああああ!!」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


「おめでとう!!」


「マジかよ!?」


「チサトンに勝つのはすげー」


「めちゃくちゃ良い勝負だった!!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「ルミが勝っちまうなんてな!」


「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「ルミィィイイイ!!」





実は、チサトン応援団は、観客の半分ぐらいである。


残り半分は、会場の雰囲気で、なんとなく流されていた者が多いのだ。


その半数が、全員ルミの応援というわけではないので、結果的にはチサトン応援団の声ばかりが目立つことになっていたが……


実際は、ルミを応援したいと思っていた人も、それなりにいる。






神埼「なんということでしょうか! 大阪大会・決勝を制したのは、ルミ選手です!! 決勝戦、ついに決着―――!!!」





と、実況も騒いでいる。


会場に立つルミに、さまざまな祝福の言葉が降ってきた。


拍手もあった。


口笛もあった。


携帯のフラッシュが焚かれる光もあった。





神埼「皆様! 優勝者であるルミ選手に、あたたかい拍手をお願いいたします!」





もともと拍手は喝采されていたが、実況者・神埼の一声で、さらに大きなものに変わる。


万雷の拍手が広がっていく。


ただ。


その中で、涙ぐむ者たちもいた。


「う……ぐすっ……」


「チサトン……う、ひっぐっ……!!」


チサトン応援団である。


彼らは当然、チサトンに勝ってほしかった。


悔しかった。


だけど。


本当に良い勝負だったから。


素晴らしい試合だったから。


拍手と祝福を惜しむべきではない。


それが勝者に対する礼儀だと、理解していた。


だから、彼らは涙を流しながらも、ルミの勝利に拍手を送る。


勝者を讃える。

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