第6章133話:カウント

「はぁ……はあ……はぁ……はぁ……」


立ちながら、肩で息をするチサトン。


仰向けに、ステージのうえに倒れるルミ。


立っているのはチサトンで、倒れているのがルミ――――ということは。


観客が爆発の歓声を上げる。






「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「おおおおおおおおおおおおお!!」


「やったあああああああああああ!!」


「チサトンーーーーーーー!!!」


「やっぱりチサトンだ!!」


「チサトンの優勝だ!!」


「あああああああああああああああああああ!!」


「うわあああああああああああああああああああああ!!!」






会場に大歓声が炸裂する。


会場全体が震えるばかりの歓声だった。


だが。


その歓声が、ふいに止まる。


「ぐっ……」


チサトンが、膝をついたからだ。


苦しそうに、全身をガタガタと震わせている。


「チ、チサトン……?」


観客たちが、戸惑う。


チサトンは、なんとか立ち上がった。


だが、彼女は思う。


(夢想剣は解けた。もう、一歩も動けん……指一本も動かせん)


かろうじて、刀は持っていた。


だが握るための握力は残っていない。


持っているだけだ。


もう刀は振れない。


チサトンは、ルミを見やる。


(ルミが起き上がってきたら、ウチの負けやな……)


真の決着は、それ次第だ。






ステージの上で倒れ、動かないルミ。


すぐさま審判がステージに上がって、ルミのそばに立つ。


「カウントを取ります!」


審判が告げた。


「10、9、8、」


10のカウントダウン。


数字が減っていく。


観客たちは、祈りを捧げた。


「頼む、チサトン!」


「勝ってくれ!!」


観客たちも、理解していた。


もうチサトンに戦う余力は残っていない。


ルミが起き上がってきたら、終わりだと。


だから祈る。


このまま、チサトンの勝利で終わってほしいと。


「7、6、5……」


カウントが減っていく。


あと5秒。


「4、3、2……」


想いがあった。


強さがあった。


激しいぶつかり合い。


この試合で、チサトンも、ルミも、自分の中の何かが、変わってしまうほどの衝撃だっただろう。


そんな素晴らしい戦い。


名勝負。


泣いても笑っても、あと2秒で、決着がつく。


「1……」


カウントが、最後の数字を刻む。


そのときだった。


「……!!」


ルミが、上体を起こした。


審判が、カウントを辞める。


チサトンは、受け入れたように、哀しげな微笑みを浮かべた。


「ルミ選手、まだ戦えますか?」


審判が尋ねる。


「はい。戦えます」


と、ルミは答えた。

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