第6章130話:ルミの応援

「ルミちゃん!! 頑張れええええええ!!!」


それは、小さな声である。


チサトン応援団の大合唱にかき消され、誰の耳にも届かない、小さすぎる声。


しかし。


ルミの耳には届く。


「負けるなああああああああああ!!!」


コトリの声。


精一杯、声を張り上げて。


たった一人で、チサトン応援団に対抗する。


空気の読めない行為だろう。


だが、コトリは、叫び続ける。


「ルミちゃん!! 頑張れえええ!!!」


ああ……


聞こえる。


聞こえてるよ。


(そうでした……)


ルミは、思う。


(私にだって、応援してくれる人がいます)


ルミは、再確認する。


それは、わずかな数かもしれない。


もしかしたら、この会場に、ただ一人、コトリだけかもしれない。


でも、それが何だ?


数の問題なのか?


違う。


ファンも、


リスナーも、


応援者も、


数じゃない。


数字じゃない。


たとえば1万人のファンの想いと、1人のファンの想いの、どちらが優れているかなんて。


比較するべきものじゃないだろう。


(負けていい戦いなんて、ありませんよね)


ルミは、そう強く想った。


今まで自分は、ファンを大事にしてきたかと問われれば、強くうなずくことはできない。


でも、だったらこれから、大事にしていけばいいのだ。


ファンを大切にすることに、早いも遅いもない。


この会場に、自分のファンだと言ってくれる人が、コトリしかいないなら、その1人のために戦おう。


たった1人のファンを大事にすること――――


きっとそれは、どれだけ配信の道を極めても、変わらず、配信者の原点で在り続けるはずだから。


この戦いを制し――――


コトリを笑顔にする。


まず、その一歩を踏み出すことから、自分の配信道はいしんどうは、本当の意味で始まりを迎えるのだと思う。


そう、ルミは信じる。


だから。


「ハァアアッ!!」


「!?」


夢想剣を乗せたチサトンの斬撃を、ルミは打ち返す。


「勝負はまだ終わっていません」


ルミは告げる。


「私にも、譲れないものがあるようなので」

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