第6章129話:敗北の予感

運気が爆発し、夢想剣の領域へと到達したチサトンを見て、ノノコは告げる。


「確かにルミは強いと思う。じゃが……」


チサトンには配信者としてのキャリアがある。


そのキャリアの中で、チサトンはファンを大事にしてきた。


――――リスナーの笑顔のために頑張る。


ともすれば青臭いともいえる、そんなスローガンを、チサトンは愚直に続けてきた。


だから、ここぞというときに勝利の女神が微笑んでくれるのだ。


「これが積み上げてきたモンと、そうでないモンの差じゃ」


チサトンが攻撃を加え続ける。


ルミの防戦一方。


倒されていないのが不思議なほどだ。


だが、勝負アリだろう。


夢想剣は長くは続かない。


もって30秒といったところ。


だが、30秒もあれば、ルミを仕留めるには十分だ。


ここから、ルミが逆転する未来はない。






「チサトン、すげえ」


「なんだ、あの動き?」


「雰囲気変わったよね?」


「でも、とにかく押してる!」


「勝てるぞチサトン!!」


「チサトン、チサトン、チサトン!!」





会場は、チサトンの豹変にやや困惑しつつも。


圧倒的な強さに驚き、熱狂するうねりが、発生している。


チサトン勝利の予想は、もはや予想ではなく、確信に変わりつつある。


この試合は、チサトンが勝つ。


チサトンが優勝する。


一進一退、どちらが勝ってもおかしくない激闘ではあったが、最後はやはり、チサトンの勝利で終わるのだ。







チサトンの激しくも美しい斬撃。


それを受けながら、ルミは思う。


(……私には勝つ資格がないんでしょうね)


チサトンがここまで強くなった理由。


それは、応援の力だ。


チサトンは、配信者として、大事な資質を持っていた。


ファンのために戦うこと。


ファンを笑顔にすること。


……思えばチサトンは、試合が始まる前から、やたらファンを意識したメッセージを発していた。


開会の宣言でも。


決勝直前の挨拶でも。


きっとチサトンは、いざというときには、ファンが自分を勝たせてくれると、良く理解していたのだろう。


だって自分たちは、配信者なのだから。


(私は、チサトンさんほどの積み重ねはありません)


自分は、ファンをそこまで大事にしてきただろうか?


……自信がない。


だから、ここで負けるのだろう。


戦闘能力の優劣よりも、まず、配信者としてチサトンに劣っているのだから。


ファンとともに勝利を掴もうとするチサトンは、とても美しい。


尊い。


優勝するのに相応しいと思う。


ああ……


だから年間ランカーなのかと、ルミは納得した。


勝てないわけだ。


そこまで理解していても、ルミはチサトンの斬撃を受け続ける。


防御し続けているのは、ただの惰性だ。


だが、もう無意味だろう。


ルミは敗北を受け入れようと。


抵抗をやめようとして―――――


「ルミちゃん!!!」


と、会場に響き渡る声がした。

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