第6章126話:到達

「チサトンー!!」


「いけー!」


「押してるぞ!」


「勝てる勝てる!!」


「お前の優勝を見に来たんだぞ!!」


「ルミなんかやっつけろ!!」


「つーか逆転してきたくね?」


「チサトン、チサトン、チサトン!!」





観客の切迫した様子も消えた。


完全に、チサトン勝利ムードである。


いや――――チサトンを勝たせたいのだ。


ファンがチサトンの勝利を信じて応援し、


チサトンもまたファンのために、勝つためのギアを上げる。


相乗効果で、どこまでもパワーを上げ続ける。


ルミには、それを止められなくなってきていた。


(応援の力……?)


ルミが、現状を分析する。


チサトンが優勢になりつつある理由。


そしてルミが不調になりつつある理由。


まさかソレが、応援によるものだと……


(そんなの、どうしようもない。チサトンさんとは、ファンの数が違いすぎますし……)


最初から、文字通り、桁違いのリスナー数を持つチサトン。


ルミがどうあがいても、絶対に負けてしまう要素だ。


(とにかく、現状を放置するのはまずいです……なんとかしなければ)


ルミには予感があった。


チサトンの勢いは、これからも上がり続けるという予感だ。


ここで止めなければ致命傷になる。





―――チ・サ・ト・ン!!―――



―――チ・サ・ト・ン!! チ・サ・ト・ン!! チ・サ・ト・ン!!―――



―――チ・サ・ト・ン!! チ・サ・ト・ン!! チ・サ・ト・ン!! チ・サ・ト・ン!!―――





チサトンコールが鳴り響く。


ああ……


応援がうるさい。


ルミは、だんだん暗い気持ちになってきた。


勝負を決めなければ、という焦りがある。


調子を取り戻さなければ、という焦りがある。


だから。


(流れを取り戻す一撃を、繰り出すしかない……!)


ルミはいろんな選択肢を考える。


すぐに、思い至る。


覚えたてであるが、【絶花】が一番攻撃力が高い。


しかも、【絶花】が決まれば、チサトンに精神的なダメージも与えられる。


チサトンの勢いを殺すには、これしかない!


「……!」


ルミが、天に剣を掲げた。


応援を黙らせる一発。


勝利の勢いを引き戻す一発。


そうなると信じて、【絶花】の構えを取る。


そして。


「ハァアアアアアッ!!」


ルミが、巨大な魔力を乗せて、チサトンに斬りかかった。


チサトンが、それを迎え撃つ。


「……!!?」


ルミの剣と、チサトンの刀がぶつかる直前。


ルミは、異様な雰囲気を感じ取っていた。


チサトンの攻撃が、かつてない力を秘めているように思えたのだ。


そして。


攻撃と攻撃が、衝突する。


結果は……。


「なっ……」


ルミが吹っ飛ばされ、尻餅をついた。


ありえない。


【絶花】が、ただの斬撃に相殺されるどころか、押し返されるなんて……


さきほどと立場が逆だ。


驚きの表情で、ルミはチサトンを見上げる。


チサトンからは、無我の境地にある静けさが消えていた。


代わりに。


陽炎かげろうめいたオーラが、全身から立ちのぼっている。


「ウチは負けん」


チサトンの周囲の空気が、蜃気楼しんきろうのようにゆがみ、あらぶっている。


夢うつつのように茫洋ぼうようと。


まるでステージ全体が、不思議な空間に包み込まれたかのようだった。


そんな空間の中心にいるチサトンが、自分にとって一番大事なもの、譲れない想いを告げる。


「ウチが負けたら、ファンが悲しむからな」


夢想剣――――


チサトンは、剣士として究極の領域へと到達していた。

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