第6章127話:夢想の境地

新田(お……まさか、夢想剣に入ったのか)


新田が気づく。


――――夢想剣むそうけん


まるで夢の中にいるかのように、非現実な理想を、現実の世界に描き出す。


身体のリミットを外し、己の200%以上の力を強制的に引き出すことのできる状態。


剣士として、願っても叶わなかった、究極の剣撃を実現してくれる境地だ。


ただ。




新田(夢想剣は反動が大きい)




夢想剣は、人間のリミットを外す状態。


身体に極めて大きな負担がかかる。


長く持続させることは不可能だ。




新田(もって30秒、といったところか)




と、新田は推定した。


つまり、泣いても笑っても、あと30秒で試合が終わる。


決着の瞬間は、もう間近だ。







チサトンが構える。


次の瞬間。


チサトンの姿が消えた。


「!!?」


その攻撃を、ルミが受け止めることができたのは、奇跡に近い――――


ほとんど勘によって、チサトンの斬撃を止めていた。


いや。


止められたわけではない。


「が、あぁっ!!?」


防御ごと、あっけなく吹き飛ばされる。


受身を取った。


心臓が、早鐘を打っていた。


なんだ……いまのチサトンの斬撃は?


本当に斬撃だったのか?


まるで止まった世界を、ただチサトンだけが動いていくような――――


そんな奇妙な間合いで近づかれ、尋常ならざる斬撃を叩きつけられた。


その斬撃は、重く、鋭かった。


かつてないほどに。


「……」


チサトンが、また剣を構える。


すくいあげるような斬撃。


(……またこの間合い)


ルミは、思わず見惚れてしまう。


鳥肌が立つのを、押さえられない。


ああ……


美しい間合いだ。


数多あまたの剣士が夢に見るような、剣の極致ともいうべき動き。


その間合いから繰り出される斬撃は、いっそ芸術的なほど。


速いとか。


強いとか。


キレがあるとか。


そういう、俗世の言葉を超越している。


「くっ!!」


チサトンの斬撃を、かろうじてルミは受ける。


吹っ飛ばされる。


……当たり前だ。


これほどまでに極まった剣を、防げるわけがない。


ルミは、妙に納得していた。


チサトンは、剣士としての到達点に至ってしまった。


もはや勝ち目はない――――

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