第6章118話:意識

チサトンは転がる。


目を開けると、そこは空。


周囲には会場。


どうやら、意識が飛んでいたようだ。


どれぐらい眠っていたのかわからない。


数秒か?


それとも、1分以上?


自分は……


負けたのか?


「10、9、8……!」


と、審判がカウントを読んでいる。


それで理解する。


まだ、負けていない。


カウントがゼロになったら負けだが、現在はまだ、ゼロではない。


(そうか。ウチはルミの【絶花】を食らったんか)


だんだん状況を理解する。


チサトンはルミの【絶花】を食らった。


あまりにルミの攻撃が速すぎて、食らったときの記憶がないが……おそらく、そういうことなのだろう。


(起きなアカン……)


と、思ったが。


身体に力が入らない。


心も、動くことを拒絶しているようだった。


(そやな……)


チサトンは、自分自身の心身状態を把握する。


(起きてどうするんや? また圧倒されるだけや)


勝ち目などない。


それなら、このまま眠っていたほうがマシかもしれない。


審判のカウントがゼロになれば、敗北が確定する。


チサトンの心は、完全に折れていた。


だが。


そのときだった。





「チサトン!!」


「チサトン、負けるな!」


「立って、チサトン!!」


「チサトン、チサトン、チサトン!」


「まだ終わってないぞ!」


「チサトンなら勝てる!」


「起きてくれええええ!!」





観客たちの大声援が耳に響く。


試合が始まって以来、観客たちは、巨大な声援をチサトンに送り続けてきた。


そして、ここに来て、一段と大きな応援が、巻き起こっていた。





「チサトン!」


「チサトン! チサトン! チサトン!」


「チサトン! チサトン! チサトン! チサトン! チサトン! チサトン!」





観客が叫ぶ。


審判のカウントがゼロに近づく。


「4、3、2、1……!」


チサトンは。


慌てて、上体を起こした。


「あ……」


と、チサトンは声を漏らす。


起きた。


起きてしまった。


上体を起こしたチサトン。


審判のカウントが止まる。


直後、審判が尋ねてきた。


「チサトン選手、まだ戦えますか?」

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