第6章113話:体幹

神崎「いったい何が起こっているのでしょうか!? ルミ選手が、チサトン選手を急に圧倒するようになりました!」


新田「アレは……体幹だな」


神崎「え?」


新田「体幹……特に背筋だ。背筋のエネルギーを爆発させて、それを推進力に変えている」


新田は説明する。


新田「人間は動くときに足を使わなければならないが、今のルミは、初動において足ではなく背筋を使っている。背中の筋肉だけで身体を動かしているということだ」


新田「そしてあの、超威力の斬撃も、背中の筋運動きんうんどうの力で可能にしている。つまり、背筋のエネルギーが爆発したときのパワーを、斬撃に乗せて叩きつけているわけだな」


神埼「な、なるほど。足を使わないから、ノーモーションで動くことが可能だということですか」


新田「ああ」





新田と同じ考察に、チサトンも到達していた。


ルミの戦闘スタイルが急に変化したのは、体幹をベースとした戦闘に切り替えたからだ。


足ではなく背筋を使うことで、縦横無尽に動き回れるようになり……


急な方向転換や、加速も減速も自由となった。


そして、このスタイルは、ルミが得意とする【剣舞】にもマッチしている。


「……!!」


チサトンの眼前で、ルミがフィギュアスケートのように動き回る。


ルミの得意技、剣舞――――


だがそのスピードは、さきほどまでとは比べものにならない。


しかも、どんな動きでも自由自在だ。


斜め上にジャンプしたかと思えば、いきなり直角に方向転換をしたり。


ゆるやかに動いているかと思えば、急に加速したり。


空中を連続で二段跳びするような動きで、接近してきたりする。







神埼「ルミ選手、すさまじい体さばきです。これが人間の動きでしょうか? まるで、翼が生えているようです!」


新田「翼……か。私にはジェットエンジンに見えるな」


神埼「ジェットエンジン、ですか」


新田「ああ。背中にジェットエンジンを積んで、加速したり方向転換したり、ホバリングしているように見える」






神埼は翼にたとえ、新田はジェットエンジンにたとえる。


しかし、何にたとえたとしても、ルミの動きは常軌を逸している。


人間業ではなかった。


――――チサトンには、極めて高度な対応力がある。


だが、彼女の対応力をもってしても、ルミの動きはとらえきれないし、攻撃もしのぎきれない。


防戦一方を強いられ始めていた。


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