第6章112話:形勢逆転

チサトンが刀を構える。


ルミが動き始める。


「……!?」


チサトンは驚愕した。


ルミは今、地を蹴っておらず、足も動かしていなかった。


まるで直立した状態から、滑るように床を移動し、剣を構えて、斬りかかってくる。


(なんや、この動き!?)


チサトンは横に避けて、ルミの剣をかわす。


その後もルミは、床からわずかに数センチ離れた宙を、滑るように滑空。


チサトンを追いかける。


(地面に触れず動いてるやと!?)


普通、何をするにもまず、足の裏で地面を蹴って、動きださなければいけない。


陸上選手が、ピストルの合図で地を蹴って走り出すように――――剣士も、初動のときは大地を蹴る。


勢いよく蹴ればそれだけ強い推進力が得られ、素早く前進することができる。


剣士なら、誰しもがおこなっている動きであり、当たり前の動作だ。


しかし。


ルミは、その常識から外れていた。


彼女はもはや、地面を蹴らない。


動き出しは完全なノーモーションであり、予備動作が一切存在しない。


いきなり加速して斬りかかってくるのだ。


――――いや、それだけじゃない。


現在のルミは方向転換も自由自在だ。


まっすぐ前進していたかと思えば、突如、真横に移動したりする。


ジャンプモーションもなく、突如、垂直に跳んだりする。


人間の動きではなかった。


しかも。


「……!!」


接近してきたルミが、剣を振りかぶった直後、尋常ならざる超攻撃が放たれる。


まるで爆発するかのような勢いとともに、ルミの剣が、チサトンの刀に叩きつけられるのだ。


「くはっ!!?」


あまりに攻撃力が高すぎて、防御ごとぶっ飛ばされる。


さっきも同じようにぶっ飛ばされた。


なんだこの威力は?


スキルか?


それとも、ルミの剣術?


どうして急にここまで斬撃力が上がった?


(……落ち着け。飲まれたらアカン。冷静に分析するんや)


チサトンは圧倒されそうになるメンタルを、なんとか立て直して、思考する。


ノーモーションの動き。


超威力の斬撃。


その本質はなんだ?


チサトンは、これまでダンジョン攻略でつちかってきた観察力と分析力を総動員する。


「……! そうか!」


そして、すぐに理解した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る