第6章111話:ルミの反撃

<ルミママ視点>


ルミの母――――ルミママは、和室のリビングにいた。


テレビで、ルミの大阪大会の試合を観戦していたのだ。


テレビでも生放送で、試合会場の映像が映し出されている。


たった今、ルミがチサトンの奥義【絶花】を食らって、吹っ飛ばされたところだ。


転んだルミが、ゆっくりと立ち上がる。


「あ……」


ルミママは、そのとき気づいた。


「あの子……ブチギレましたね」


完全に劣勢に立たされていたルミ。


ここまでチサトンに、やりたい放題やられていたように見えるが……


いよいよ逆襲のターンが訪れたと、ルミママは察知する。


「もともとルミは50%ぐらいの力しか出せていませんでしたが、いよいよ本気ですか」


ルミは、人間相手には本気で戦えない。


たとえバイタルガードがあっても、無意識に力をセーブしてしまう。


しかし、相手からボコボコに殴られたことで、ついに本気になった。


ただ一つ補足があるとすれば……


本気といっても、50%の力から、100%になったというわけではない。


完全にキレてしまっているので、100%を振り切って、120%ぐらいになってしまっていることだ。


「相手選手、チサトンという名前でしたっけ。まあ、バイタルガードがあるなら、ルミに殺されたりはしないでしょう。ひどいトラウマを負うかもしれませんが」


ルミママはのんきにそんなことを言いながら、せんべいを食べ、お茶をすすった。






<ルミ視点>


【絶花】を食らい、倒れていたルミが立ち上がる。


そのとき。


会場にいた何人かは、気づいた。




新田(……!!)


新田(ルミの空気が変わった……?)




ルミの垂れ流すオーラ。


それは怒りか。


殺意か。


不満か。


ともかく、負の気配であることは間違いない。


そのおぞましい気迫を、チサトンも感じ取っていた。


(な、なんや……この悪寒)


鳥肌が立つ。


戦慄が走る。


嫌な汗が背中に流れた。


まるで、勝ち目が薄いダンジョンボスと対峙したときの感覚に近い。


自然と、身体が震えてくる。


ルミが剣を構える。


チサトンは思った。


(来る……!)


次の瞬間、ルミが地を蹴る。


神速というべき初動――――


そのスピードは、チサトンの目で追えるものではなかった。


あまりの速さ。


瞬間移動を使ったのかと思うほどの超加速。


ルミの瞬間移動は封印されているので使えないのだが、使ったのではないかと疑いたくなるほどの超スピードだった。


一瞬にして眼前まで接近されたチサトンは、刀で防御の構えを取る。


しかし。


「……!!?」


ルミが剣を振りかぶった直後。


チサトンの刀に、爆発するような衝撃が走った。


「があっ!!?」


防御ごとチサトンは吹っ飛ばされる。


会場が唖然として静まり返る。


チサトンは受身を取りながら考える。


いったい何をされたのか……?


わからない……いや、わかる。


あれは、ただのパワーである。


ルミが、振りかぶった剣を、力任せに叩きつけてきただけ―――――


それだけで、チサトンは防御ごとぶっ飛ばされてしまった。


つまりルミの攻撃は、ただの力押し。


しかし、威力と速度が桁違いに跳ね上がっていた。


速すぎて、強すぎて、防ぐことすらぎりぎりだった。


(なんで、こんな急に威力が上がったんや?)


チサトンは混乱した。

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