第6章109話:劣勢

そして。


本当にチサトンが凄まじいのはここからだった。


「まだまだいくで!」


チサトンがそう告げて、次に見せた剣技は。


その場にいた誰もを驚愕させた。


―――チサトンが地を蹴り、疾駆する。


ルミから見て斜め横へと移動する。


そこから、くるくると身体を回転させながら斬りかかってきた。


「なっ……!?」


チサトンの剣撃を、ルミは受ける。


チサトンはさらに身体を回転させながらルミの側面に回って、斬撃を放ってくる。


(これは……)


ルミはぞっとした。


このパルクールのような――――


フィギュアスケーターのような動きは――――


まさしく、ルミと同じ、剣舞。


「ふっ!!」


チサトンが空中でムーンサルトのような動きをしながら回転斬りを放つ。


それがルミの肩から鎖骨にかけてにクリーンヒットし、ルミは吹っ飛ばされた。





神埼『おおっと! ここでチサトン選手の攻撃がクリーンヒット! しかも、この動きは……!』


新田『ルミの剣舞だな』





ルミが体勢を立て直そうとする前に、チサトンの追撃が飛んでくる。


縦回転たてかいてん前宙ぜんちゅうしながら、回転斬りを放ってくるチサトン。


「くっ!!」


なんとかルミは攻撃を受けるが、不安定な姿勢でのガードだったために、たたらを踏む。


ルミは、心の動揺を隠せなかった。


ルミが得意とする剣術―――――


それをチサトンが演じ、ルミにクリーンヒットを当ててくる。


チサトンの剣舞は、ルミの下位互換ではない。


"本家"ルミの剣舞と遜色そんしょくないほどの威力とキレで、ルミを翻弄ほんろうしていた。




会場は大盛り上がりである。




「うおおおおおおおお! すげー!!」


「敵の技だよな、アレ!」


「相手の剣術で圧倒するなんて、チサトンはやっぱ天才だよ!」


「チサトン、チサトン、チサトン!!!」




拍手喝采が巻き起こる。


会場の空気は、完全にチサトン一色だ。


いや……


元からそうだった。


この会場に、ルミの味方なんて、ほとんどいない。


観客の大多数がチサトンの勝利を望んでいる。


観客席にはコトリもいたが、頑張って応援しても、その声は周囲の大音量にかき消される。


(うぅ……ルミちゃん……っ)


コトリは観客席で、祈るように両手を組む。


彼女には、ルミの勝利をただ願うことしかできない。

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