第6章108話:封印

チサトンは得意げに微笑む。


「瞬間移動、見破ったで」


ルミは、立ち上がる。


冷や汗が頬をつたっていた。


――――年間ランカー、チサトン。


いくらなんでも対応力が高すぎる。


まだ数手ほど打ち合っただけなのに、剣舞も瞬間移動も、見切られてしまった。


これがダンジョン配信界を上り詰めたトップランカーの実力なのか。


「次はウチがスキルを見せる番や」


チサトンの空気が変わる。


「まず封印や」


「!?」


チサトンが何らかのスキルを発動した。


何をされたかはわからない。


でも、嫌な予感がした。


ルミはいったん距離を取ろうとして、瞬間移動を使った。


しかし。


瞬間移動が発動しない。


「無駄やで。瞬間移動スキル、封印させてもらったからな」


「ふ、封印……!?」


「ウチには一つだけ相手のスキルを封印できる【スキル封印】があるんや。その【瞬間移動】、回避に使われると面倒そうやし、封印しとくわ」


ルミの背中に嫌な汗が流れる。


切り札の一つである瞬間移動スキルがもう使えない!?


瞬間移動があっても、チサトンは一筋縄ではいかないのに。


「そんじゃこっからは殴り合いや! いくで!」


戦意をみなぎらせるチサトン。


「食らえや――――スキル、桜刃撃おうじんげき!!」


チサトンが刀を引きながら、まっすぐに突っ込んできた。


そして間合いに入った瞬間。


強烈な突きを放ってきた。


その突きは一撃ではない。


いや、正確には一撃なのだが、まるで三度の突きを同時に放ったかのような、三段突きだ。


一度の突きが、三つの突きにへんげするスキル――――桜刃撃。


チサトンの十八番の一つであった。


「がはっ!!?」


ルミは桜刃撃の二突を防いだ。


しかし、残る突きの一つを防ぎきれず、食らってしまう。


吹っ飛ばされ、地面を転がる。


観客の歓声。




「おおおおおおおおおおおお!!」


「うおおおおおおおおおおおお!!」


「でたー!!」


「沖田チサトンだああああ!!」


「沖田! 沖田! 沖田!!」


「必殺の三段突き!!」


「これが沖田チサトン!!!」


「試合で見られるのか、沖田剣術」


「かっけえええええええええええええ!!」





観客たちが「沖田」というワードをしきりに使って盛り上がる。


実況の新田は、その様子に、首をかしげた。





新田『おい……なんで"沖田"なんだ?』


神埼『ああ、それはですね。沖田総司のことですよ』


新田『沖田総司? 新撰組の?』


神埼『はい。沖田総司は三段突きを得意としたとされていますからね』


神埼『一度の突きを放つ時間で、三度の突きを放つ、神速の三段突き』


神埼『沖田が好んで使ったその剣技は、実は、桜刃撃というスキルによるものだったのではないか、という説があります』


新田『ほう』


神埼『で……その沖田が使ったとされるスキルと、同じスキルを、チサトンは所持しているということですね』


新田『それを試合中に使ってくるか。配信者らしいな』





桜刃撃は決して、使い勝手の良いスキルではない。


それでも、あえて使ってきたのは、観客を盛り上げるためであろう。


実際、それが決まったことで、観客の熱気はうなぎのぼりだ。


(くっ……アレを使うしかない)


と、ルミは冷や汗を流しながら思う。


スキル―――【剣武天限】


これで戦闘力を一時的に高める。


しかし。


「剣武天限か。それはウチも使えるで」


「……!」


チサトンもまた、剣武天限スキルを発動する。


これにより両者の状態は同一イーブンとなり、ルミが剣武天限を使った意味は薄れてしまう。

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