第3章55話:戦風刃



「瞬間移動……厄介なスキルを所持しているな。ならば我も出し惜しみはせぬ。―――――戦風刃(せんぷうじん)!!」


斧を思いきり振る。


その一振りによって、三つの竜巻が宮殿内に出現し、吹き荒れる。


斬性をともなった竜巻であり、祭壇や支柱に裂傷を浴びせていく。


しかしその竜巻は竜人王を傷つけない。


彼が敵と認識した相手だけにダメージを与える斬風である。


「……っ」


ルミは仮面の下で、顔をしかめた。


竜巻と一定の間隔をあけて行動しなければならないので、移動範囲が大きく制限される。


それは竜人王に読まれやすい。


しかも。


「ふンッ!!!」


竜人王が竜巻の中から姿を現し、斬りかかってきた。


慌てて瞬間移動でその場を離れ、退避する。


竜人王は竜巻の中だろうと外だろうと、自由自在に動き回る。


ルミの行動範囲だけを減らす、厄介な技だ。


だが。


ルミはこういう展開のほうが、燃えるタチだ。


(面白い……!)


戦闘は、ある程度、力が拮抗しているから楽しいのだ。


楽勝で倒したってつまらない。


「――――波動刃(はどうじん)!!」


ルミは宣言しながら、スキルを発動する。


剣を振り、竜巻の一つに向かって巨大な風の波動を放った。


その波動は竜巻とぶつかって、竜巻をかき消す。


「ふふふ。そうこなくてはな!」


竜人王がルミに斬りかかる。


ルミがそれに応じてカウンターの斬撃を放つ。


竜人王が回避しつつ【戦風刃】で竜巻をふたたび発生させた。


ルミがすぐさま【波動刃】で打ち消す。


スキルと武器が激しいつばぜり合いを起こす。


走る。


斬撃を放つ。


かわされる。


攻撃が飛んでくる。


転んで回避する――――と見せかけて、瞬間移動。


竜人王の背後にワープして斬りかかる。


それを振り払うような、竜人王の回転斬り。


同時に【戦風刃】が使用され、ふたたび竜巻が炸裂する。


ルミは笑みを浮かべた。


この疾走感。


汗がほとばしり、アドレナリンが燃焼する。


身を焦がすような戦場の熱が、ルミを高い昂奮へと導いた。


竜人王は笑って言った。


「仮面で顔は見えぬが……わかるぞ。貴様、いま笑っているだろう?」


「……」


「血風舞う戦場の中でしか、得られない愉悦がある。貴様はそれを、心から味わうことができる戦姫だ。いま、楽しくて仕方がないだろう?」


「……否定はしません」


命を賭けるスリル。


血湧き肉踊る戦い。


燃えるような血潮。


全てが、ルミの魂を爆発させていた。


そのたぎるような熱のままに、戦場を疾駆する。

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