第3章39話:下層


ここは下層ではないか……そう口にする来花。


ルミは言う。


「ん、そうなんですか?」


「ええ、きっとそうよ! 此間ダンジョンの下層は迷宮になっているって聞いたことがあるもの」


答えつつ、来花は青ざめた。


ここが下層だとしたら、来花には難易度が高すぎる場所だ。


下層はAランクの魔物がウジャウジャ出てくるとされる、トップランカー向けの場所。


しかも未踏破の層であり、どんな魔物が出てくるかも、全てはわかっていないのだ。




『なんだ?下層に落ちたのか?』


『アクシデント発生?』


『大丈夫かコレ?』


『下層に転移したっぽい』


『此間ダンジョンだっけ?救出隊とか出したほうがいいんじゃねーの?』


『ルミなら大丈夫では?』


『罠で下層に落とされるのはエグイな』


『隠し部屋自体がトラップだったのかよ』


『転移系トラップってこんなに凶悪なの?』


『瞬間移動を使え』


『瞬間移動で帰還できないの?』




さすがにリスナーたちも茶化す雰囲気ではない。


聡いリスナーは、瞬間移動での離脱を提案していたが、来花たちはそれらのコメントに気づかなかった。


ルミは言う。


「下層は確かAランクの魔物が出てくるんですよね。来花さんはAランクの魔物とたたか―――――」


そのとき、気配を感じた。


部屋の出口のほうから、一匹の魔物が現れた。


3メートルはある赤色のゴーレムだ。


来花が戦慄した。


「ギ、ギガントゴーレム……」


ギガントゴーレム。


Aランクの魔物。


攻撃力・防御力ともに凶悪な上級モンスター。


重々しい図体をしているのに、動きも素早く、探索者を苦しめてきた怪物である。


もちろん来花に倒せる相手ではない。


彼女は沸き起こる恐怖に膝が震えた。


ギガントゴーレムの目が、二人を捕捉する。


そして、駆け出した。


ゴーレムとは思えないスピードで距離をつめ、腕を振りかぶってくる。


しかし。


「邪魔です」


ルミがギガントゴーレムに向かって跳躍し、その胸部に向かって拳を振りぬいた。


爆発するような轟音と衝撃。


次の瞬間、ギガントゴーレムの上半身は壊滅する。


吹き飛んだ上半身の破片があちこちに散乱した。


戦闘不能に陥ったギガントゴーレムは、あえなく活動を停止した。


「……」


来花は絶句していた。


ルミが強いことはわかっていた。


Aランクを楽々と倒せる実力を有していることも。


しかし、生で見ると、やはり衝撃が大きかった。


ギガントゴーレムを対峙したとき、尋常じゃない圧力を感じた。


これは絶対に勝てないと。


直感的にそう思った。


それを、こうもあっさりと蹴散らしてしまうなんて……


次元が違いすぎると、改めて痛感する。




『楽勝で草wwwww』


『ルミさんさすがwwwwwww』


『瞬殺ww』


『当たり前のように粉砕したなw』


『ルミパンチ炸裂wwwwwwww』


『強すぎてワロタ』


『下層に落ちたときは心配したけど、ルミなら楽勝よなw』


『心配して損したわwwwwwww』


『下層でも元気にルミパンチ!』


『ルミ「下層?中層と大差ないですね!」』


「ギガントゴーレム瞬殺は頭おかしいwwww』


『あれを雑魚みたいに狩るのはヤバすぎwwww』


『来花リスナーも驚愕だろコレw』





「こいつ、Aランクなんですよね? 素材回収していきましょうか」


ルミは言ってからギガントゴーレムの残骸に近づく。


それから素材を拾っていった。

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