第3章36話:ルミ・来花
ルミと来花は歩き出す。
来花が言った。
「あなたのことはとても注目していたわ。いきなり出てきて、あっという間に人気になっちゃったから」
「……あはは。まあ、運が良かっただけというか」
「そんなことないわ。ルミさんは、とても強いもの。あの……どうやってそんな強さを身につけたのか、聞いてもいいかしら?」
ナイスな質問である。
その質問は、おそらくリスナーのほとんどが聞きたいと思っていたことだろう。
そういうニーズをすぐさま察知して、リスナーの声を代弁するかのごとく振舞う来花は、さすが人気グランチューバーである。
「どうやって……と言われても、普通に修行をしたからですね」
「修行?」
「はい。私は、家が剣術道場なんです。なので小さいころからずっと修行をしていました」
「なるほど。剣術の英才教育を受けていたということ」
「英才教育と言えるほどかはわかりませんが、まあ、そういうことですね」
「あの舞うような剣も、その修行の過程で習得したの?」
「はい。アレは俗にいうパルクールというやつですね。それを剣技に織り込んでいます。うちではパルクールという名ではなく別の名前で呼ばれていましたが」
「なるほど。確かに言われてみればパルクール的な動きがあるかもね」
来花がそのとき、補足するように言った。
「あ……うちの配信ではね、そういう話もすごく参考になるのよ。あたしは恥ずかしながら、天才じゃなくて、努力の人で……コツコツ強くなっていくところをリスナーに見せる、というコンセプトで配信をやってるから」
「なるほど……」
素晴らしいコンセプトだ。
「ええ。だから、いろいろ話を聞かせてもらえると嬉しいわ。うちのリスナーさんたちの参考にもなるから」
「そういうことなら、喜んで。私に話せることでしたら、お話しますよ」
「ありがとう。じゃあ――――」
そこから来花がいろいろと聞いてくる。
会話が弾む。
ルミはそれほど人と話すのが得意ではない。
しかし来花は聞き上手であり、間断なく質問を投げて、会話を弾ませた。
小気味よいトークであり、リスナーだけでなく、ルミまでも楽しい気分になってくる。
と、そのとき。
魔物―――インプが出てきた。
「邪魔ですね」
そうつぶやいたルミは、一瞬で近づいて殴り殺す。
瞬殺されたインプ。
来花が驚く。
次いで、苦笑した。
「なんというか……本当に瞬殺なのね」
「え? ええ、まあ」
言いつつ、倒したインプの横を通り過ぎようとする。
「素材は拾わないの?」
「えっと、まあ、ここに来るまでに素材は拾ってきましたから」
ルミも初回の配信から反省をした。
今では、素材を全無視するなどという暴挙には出ていない。
良いと思った素材は積極的に拾っていくことにしている。
とはいっても、素材の価値などわからないので、レアっぽい素材を直感で拾っているだけだが。
さて……先に進む。
途中、またインプが出てきた。
「今度はあたしがやるわ」
そう告げた来花が、剣を持って駆け出す。
滑るような移動……からの、踏み込み。
インプが迎撃せんと戦闘体勢に入るが、来花は素早く連続突きを繰り出してダメージを与えた。
一瞬ひるんだインプだが、負けじと反撃を繰り出す。
そこからは攻撃の応酬となるが、最初に与えたダメージによって、徐々にインプが押され始める。
そのとき大きな攻撃がインプに入った。
来花は一気呵成に攻める。
「ハアアッ!!」
トドメの一撃とばかりに、大振りの袈裟斬りを放ち……
それがインプを切り裂いて、絶命へと至らしめた。
(ふむ……)
ルミは感心する。
来花の剣には、積み上げてきた努力を感じる。
丁寧に、堅実に、一歩一歩上達してきた剣だ。
常に別の攻撃パターンに移れるよう間合いを確保し……
視野を広く持ち、思考の時間を手放さず……
攻めるときには攻め、厳しいときには無理せず守る。
攻撃型ではあるが防御型にも切り替えやすい、安定した型である。
(コツコツ強くなっていくところをリスナーに見せる、と言ってましたね)
まさに、その言葉を体現しているような戦い方であった。
ルミは内心で、来花に敬意を示す。
同じ剣士として、実直に剣術を鍛えてきた者には、好感を覚えるものだ。
それからしばらく、ルミと来花は交代で敵を倒し、ダンジョンを攻略していく。
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