第3章32話:来花とリリミア



お昼。


ルミは、コトリとともに売店で昼食を買った。


やはりサンドイッチである。


そのあと、座れる場所を探して学内を歩いていた。


魔法学科棟に続く道を歩いていたとき――――


ふと、たくさん人が立ち止まっている場所があった。


その中心にいるのは、二人の女性である。


コトリが言った。


「あ!! あれ、来花(らいか)さんとリリミアさんだよ!」


ルミが尋ねる。


「えっと……有名な方ですか?」


「ルミちゃん知らないの!? この大学にいる大手グランチューバーなんだよ。二人ともチャンネル登録数30万ぐらいいて!」


コトリが説明する。


――――まず、左側にいるのが来花(らいか)。


上半身は騎士のようなコルセット服、下半身はスカートとハイソックスといういでたち。


髪は青のセミロングであるが、一部をくくってツインテールにしていた。


目は、吊り目であり、黄色の瞳できりっとしている。


いかにもツンデレといったような顔立ちである。


チャンネル登録数29万。


「平凡な自分が地道に努力をして強くなっていく姿を見せる」というコンセプトで、ダンジョン配信を行っているという。


なお、鞘坂大学の最上位グランチューバーだという。


――――そして、右側にいるのがリリミア。


こちらはわかりやすくお嬢様といった格好である。


派手な赤のドレス姿。


下半身はふわっと厚みのあるドレススカートであり、ゴージャスな印象を受ける。


右手には扇子を握っており、口元を隠していた。


髪は赤の縦ロール、そして目は黄色であった。


チャンネル登録数34万。


「お嬢様がド派手な大型魔法で敵をぶっ倒す」というコンセプトで活動しているダンジョン配信者だという。


こちらも鞘坂大学の最上位に君臨するグランチューバーだ。


「それにしても、こんなところで会うなんて奇遇ねリリミア? とても会いたくなかったわ」


「あらあら、わたくしも、どうしてこんな方と出くわしてしまったのかしらね来花さん? 今日はとても運が悪い日ですわ。オーッホッホッホッホ!」


な、なんだこの二人。


ニコニコしながら皮肉というか嫌味を言い合っている。


すると、コトリが小さな声で解説してくる。


「二人は犬猿の仲なんです。お互いにいがみ合っていることは、リスナーですら知ってる公認の事実なんですよ」


「そ、そうなんですか」


そんなグランチューバーもいるんだなぁ、と感心するルミ。


リリミアが言った。


「そういえば、わたくし先日チャンネル登録数が34万を突破したのですわ!」


すると来花の顔が曇った。


リリミアがにやりと笑い、続ける。


「34万人の方がわたくしの配信を見てくださっているなんて、ありがたいことですわ! あ、ところで、来花さんのチャンネル登録数はいくつだったかしら? 17万?」


「29万よ! わざと間違えるのは辞めなさいよ!」


「オーッホッホッホッホ!! あらあらごめんなさい。でも、まだ29万なのですわね? どうして30万の大台に乗れないのでしょう? やはりあなたというキャラクターが地味なせいかしら?」


うわぁ……


完全にマウンティングだ。


ルミはハラハラしながら成り行きを見守る。


来花がフッと笑った。


「地味……ね。確かにあたしはあんたみたいに、面白い笑い方もしてないし、クルクルパーな髪型もしてないものね?」


するとリリミアが憤激した。


「クルクルパーですって!!? これは縦ロールですわ縦ロール! それに面白い笑い方などしておりません、これはエレガントな笑い方なのですわ!!」


「どこがエレガントよ! 高慢ちきな貴族令嬢みたいじゃない!」


「あら……貴族令嬢だなんて、そんなに褒めてくださらなくても結構ですのよ? まあ本当のことですけれど!」


「褒めてないのよ! 都合の良い単語しか聞こえないのかしら!?」


ふむ……


なんというか。


言い争いをしているように見える……けれど、そこまで険悪というわけではないような?


漫才を見ているような感じでもある。


実際、周囲も、ハラハラしているわけではなく、面白い寸劇を見守るような雰囲気だ。


ルミはコトリに尋ねる。


「あの二人、本当にいがみあってるんですか?」


「うーん。まあ、いがみあってるとは思うよ。でも嫌いあってるわけではない、かな。心地よいライバル的な感じだと思う」


「なるほど……」


コトリの分析は、しっくり来る。


実際、そんな感じの関係なのだろう。


「そういえば来花。あなた、此間ダンジョン(コレマダンジョン)に行くつもりなんですって?」


リリミアが尋ねると、来花が答えた。


「ええ。そうだけど?」


「ふーん。あそこは下層の敵が手強いと聞きましたけれど、大丈夫なんですの?」


「下層なんていかないから大丈夫よ。中層で配信をして終わりね」


「まあ、それならいいですが」


「何よ。心配してくれてるのかしら?」


来花が尋ねると、リリミアが顔を赤くした。


「そ、そんなわけないでしょう!? 一応、ライバルと認めているあなたが、無様な死に方をしたら寝覚めが悪いですもの」


「そう。ありがとう。まあ、でも、ご心配なく。あたしは無理はしないスタイルだから」


「あなたの地味・オブ・地味なスタイルを考えれば、何より説得力のある言葉ですわね」


「一言余計なのよ!」


そのあと、来花とリリミアは二言、三言ほど言葉を交わしてから、別々の方向に去っていった。


周囲の人々も、それにあわせて、散っていく。


コトリは言った。


「私たちも、いこっか」


「そうですね」


ルミとコトリは昼食を食べる場所を探して歩き出す。

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