第2章28話:瞬間移動と宝箱



次の瞬間、ルミの姿がサッと消えた。


そして一瞬にして、別の場所に現れる。


「このとき持ち物も一緒に瞬間移動してきます。ただ、残していきたい持ち物は、置いていくことも可能です」


現在、飛行カメラは瞬間移動についてこないようにセットしている。


そのおかげでリスナーの視点は固定され、ルミだけが一瞬で数十メートルを移動した光景が映っている。




『!!?』


『うおおおおおおおおおおおおおお!』


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおお』


『やべえwww』


『やっぱり瞬間移動かwwwww』


『瞬間移動きたwww』


『ああああああああああああああああああ! やっぱりソレ取れたんだなあああああ!』


『予想通りといえば予想通り』


『魔王騎士のスキルだな』


『これはチートスキルwwwwww』


『ルミが使ったら鬼に金棒w』


『めちゃくちゃうらやましい!!』


『おめでとおおおおおおおおおおおおお!』


『おめwwwwww』




リスナーがたくさんコメントを書いてくれる。


それを携帯で確認する。


でも、返事はしない。


返事なんてしてられないほど、コメント量が多いからだ。


だから実質、一人芝居をする要領で、好きにやることにした。


「瞬間移動、壁抜け」


飛行カメラの映像からルミの姿が消える。


数秒後、隣の部屋からルミがやってきた。


「ちょっとわかりにくいかもしれませんが、このように瞬間移動は壁の向こうにも移動することができます。今、この部屋から隣の部屋へワープして、戻ってきました」




『めっちゃ便利そうwwwww』


『これは使えるスキル!』


『便利すぎてワロタ』


『応用性が高そうw』


『悪事に利用されたらたまらんやつw』


『捕まっても一瞬で逃げられるなwwww』




「ちなみに壁の中に入るのは無理です。あと、一度でも生で見たことがある場所なら移動できますが、見たこともない場所に移動は無理です。当然といえば当然かもしれませんが」


まあそりゃそうだわな、というコメントが並ぶ。


ちなみに、瞬間移動は乱発しても疲れない。


魔力の消費がほとんどないスキルだ。


まさにチートスキルの名を冠するにふさわしいといえる。


「というわけで、魔王騎士のスキル石は瞬間移動でした。では最後に、実践で使ってみたいと思います」


ルミは部屋を出て、階層の奥へと移動する。


そこに魔物2体がいる。


こんぼうを持った2メートルぐらいのオーガである。


その後ろ……ちょっと離れたところに宝箱があった。


「あそこに宝箱があります。いまから瞬間移動で宝箱の前に飛びます。手前の2体には気づかれず、宝箱の中身を回収してみせましょう」


ルミはそう宣言してから、瞬間移動をおこなった。


宝箱の前にワープする。


オーガたちはあらぬ方向を向いており、ルミの姿に気づいていない。


ルミは速やかに宝箱をあけようとした。


が……


(え……!? 鍵がかかってる……!?)


宝箱が開かない。


予想と違う展開になり、アワアワと慌てだすルミ。


(仕方ない。力づくで開けるしかない!)


ルミは鍵部分を殴りつけて破壊した。


パカッと宝箱が開く。


しかし、その音でオーガたちに気づかれる。


2体のオーガが襲い掛かってきた。


こんぼうを振りかぶってくる。


「くっ……」


……戦うしかない。


ルミはオーガのこんぼうを避けて、オーガの顔面を殴り飛ばす。


さらに続けざまにもう一匹も殴り倒して、絶命させた。


一応、宝箱はゲットできたが……


動画のリスナーたちは、ルミの行動に盛り上がっていた。




『ちょwwwwwwwwww』


『制圧するんかいw』


『瞬間移動の意味wwwwwww』


『結局ゴリ押しやんwwww』


『ワロタ』


『ミスってて草www』


『何のために瞬間移動したんだwww』


『ルミパンチは全てを解決する!!!!』


『ただの力押しw』


『ルミ「ええい、もうパンチでいいや!」』


『瞬間移動とは何だったのか?www』


『瞬間移動を使うより、正面から殴りかかったほうが早いなwwww』


『結局こういうオチかよwwwww』





コメントが炸裂する。


元々この配信はSNSで拡散されていたが、ここにきて一気に拡散量が増加。


SNSでバズりはじめ、トレンドにも乗り始める。


ルミは飛行カメラに向かって慌てて言った。


「と、とにかく宝箱は回収できましたので、これで配信は終了します! ありがとうございました!!」


そして、配信終了ボタンを押した。


ルミは、己の失敗に顔が熱くなりながらも、ダンジョンをあとにするのだった。

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