第2章18話:オリエンテーションとメッセージ


「さてオリエンテーションを始める。席につきなさい」


教授が厳かな声で言った。


男性教授である。


オペラ歌手でもやってるのかと思うようなバリトンボイスだ。


大ホールにいた全員が席につく。


ほどなくして説明会が開始された。


「では講義についての説明を開始する。わかってると思うが、大学の講義は全て単位制だ。講義には二種類があり、それは、必修科目と選択科目である」


必修科目は絶対に履修しなければいけない講義。


選択科目は受けるかどうかを自由に選べる講義。


「ただし進級には年25単位が必要となる。下回ったら……留年だ」


留年。


それだけは絶対に避けねば……とルミは意気込む。


「学期は春学期と秋学期の二つに分けられる。それぞれに学期末試験がある」


つまり


春学期に1回、


秋学期に1回、


学期末試験があるわけだ。


「このほかに【フリーパス試験】というものがある。これは少し特殊でな。フリーパス試験に合格すれば、25単位が贈呈される。つまり、その年の講義は受けなくてもよくなるということだ」


大ホールがざわめいた。


進級には年25単位が必要だと教授は述べた。


その25単位を、たった1回の試験でゲットできるのだ。


「ただしフリーパス試験は難易度が高い。合格率は2パーセント以下だ。講義に出たくない者は、頑張って2パーセントの側に入ることだな」


教授が冗談めかして言うと、講義室に笑いが起こった。


ルミは思った。


(フリーパス試験に合格すれば、講義に出なくていいとは……)


魅力的な話だ。


ルミは、大学ではしっかりと学びたいと思っている。


しかし探索者活動をメインにしたいと思っているので、大学ばかりに重きを置くわけにはいかない。


もし25単位をゲットできれば、講義に出る出ないが完全に自由となるので、配信者活動が阻害されることはなくなる。


フリーパス試験……受けてみようかな?








さて、この日は説明会だけで終わりだ。


ルミは大学を出て帰路につく。


途中、スーパーマーケットで食材を買い込んだ。


ついでにメモ帳を買っておく。


そして帰宅。


昼14時。


まだまだ日が高い時間だ。


窓の向こうには青空が広がっている。


とりあえず部屋着に着替える。


昼食がまだだったので、適当にオムライスを作って食べる。


そのあと冷蔵庫から炭酸入りのグレープジュースを取り出して、テーブルの上に置いた。


ノートパソコンを起動。


自分のアカウントを確認する。


配信に関する数字は、まだまだ爆速で伸びている。


チャンネル登録数は76万人を記録していた。


PV数はついに950万を達成。


しかも秒ごとにPVを積んでおり、1000万PVを突破することはもはや確実だった。


(本当に、どこまで伸びるのでしょうか……)


自分でも怖くなるぐらいの伸び方である。


アカウントへの通知や連絡は9999件を越えている。


全部確認するのは無理だ。


主だった連絡を確認してみると、以下のような個人メッセージが送られてきている。




『めちゃくちゃすごい動画だと思いました!』


『あんなにすごい配信見たことないです!すぐにチャンネル登録しました!これからも応援してます!』


『続きが楽しみです。早く次の配信が見たい>w<!』


『舞うような剣、どんなふうにやってるのか教えてほしいです。講座とか出してもらえませんか?』


『めっちゃ面白い配信でした!』


『一瞬でファンになりました!ルミさんのファンアートを描きたいです!どうか許可をいただけませんか?』




大多数が好評メッセージである。


他にも、探索者ギルドやクランからのメッセージもある。




『ルミ様は、既に探索者クランに所属しておられますか? 無所属でしたら、是非うちにいかがでしょう?』


『大手クランの認定を受けました【ヴィヴィスの園】です。是非ルミさんを、当クランに勧誘したくて、メッセージを送らせていただきました』


『あんなにお強いなんてすごいです!ルミさん、是非うちのクランに来てください!!』

 



学者などからのメッセージもある。


『最後に出てきた大量ポップについて、ルミ殿の見解を聞かせていただきたい!』


『どのようなスキル石を入手したのか、教えていただくことはできませんか? もちろん、吹聴したりはいたしません。守秘義務は守ります』


『ダンジョンについてお話を聞かせていただきたい。ルミさんがよろしければ、烈香大学の篠田研究室までご連絡いただきたく――――』


また企業とおぼしきメッセージもあった。


ほとんどがルミとコラボをしたい、という旨のものであった。


中小企業が多いが、ルミでも知ってる大企業の名前もちらほらあった。




―――――50件ほどのメッセージを読んで、ルミは困惑する。


こんなに好評をいただけるのは、嬉しいことだ。


しかし、全部に返事なんて出来ない。


あまりに数が多すぎる。


返事をするメッセージの取捨選択をするしかないだろう。


(とりあえず、ファンアートについての問い合わせが多いですね。それについての返答だけ出しておきましょうか……)


自身のプロフィールとチャンネル説明欄に「良識の範囲内でなら、ファンアートについてはご自由にお描きください」と記しておいた。


他のメッセージについては、重要そうなものに関してのみ、追々返答していくことにしよう。


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