第2章17話:二人の視聴者



剣術学部棟を目指して歩き出す。


大学内は、とても広い。


芝生のうえにコンクリートの道が走る。


道の上には大学生たちが思い思いに歩き回っていた。


バイク通学の者もいるし、おしゃれで可愛いミニベロに乗って走る者もいる。


服装については、多くは大学生らしいオシャレな格好であるが……


なかには戦闘用の衣服に身を包む者もいた。探索学部の学生だろう。




さて……道はあちこちへと枝分かれし、建物とつながっている。


大学の建造物は、赤レンガの建物もあれば、白コンクリの美しい建物もあり、さまざまであるが、たいていは四角い形状をしている。


一つだけぽつんと建っているものもあれば、いくつかの建物や棟が密集している場合もある。


うん、大学って感じの風景だね。


ルミがやってきた【剣術学部棟】は、赤レンガの7階建ての建物であった。


見上げるほどそそりたつ建造物である。


ちなみに、ここにくるまでに、サークル部員募集の用紙を大量に渡された。


あとで確認しようと思って、全てアイテムバッグに突っ込んでいる。


……棟の玄関を見つけて中に入る。


階段を昇って2階の講義室へ。


講義室に入ると、そこは大ホールだった。


段々状にテーブルが並べられている。


一番前には講壇と、黒板。


講壇には教授が立っており、プロジェクターの準備を行っていた。


大学生たちが思い思いに着席したり、友達らしき人と話したりしている。


ここにいるのは皆、一回生だ。


しかしもう話せる仲間を見つけて、グループを作っている者がいるのだ。


友達づくり、早すぎる!


ルミにとって、大学のぼっち回避は大きな課題だったので、うらやましいと感じると同時に、にわかに焦りを感じた。


とにかく適当な席を探して座る。


ルミが座ったのは中央中段あたりのテーブルだった。


そのとき、前のテーブルに座っていた女子大生たちの話し声が聞こえてくる。


二人組であり、一人がボブカット、一人がロングヘアだった。


ボブカット女性が言う。


「ねえねえ、ルミの配信見た?」


「……!!?」


ルミの心臓が跳ねる。


ルミの配信……!?


それって……


「見た見た! マジで面白かったよね。星石拾ったとことか、壁パンチしたところとかさ!」


ロングヘア女性が応じる。


星石……壁パンチ……


(わ、私のことですね……ううぅ)


世にたくさんいるであろう、どこぞのルミさんの話かとも思ったが、そんなことはなかった。


まさか自分の動画の話題がこんな近くでされるとは思っていなかったので、ルミはビクビクする。


ボブカット女性が言った。


「壁パンチは最高だったよね。あのときあたし即効でチャンネル登録したわ」


ありがとうございます……!


でも正体を隠してるので、言葉に出して感謝を言えません。すみません。


「私も推しになっちゃったわ。あんな攻略できる人、他にいないしね」


うわああああああああああ!


お、推しだなんて、そんな……そんな……っ


とても恐れ多いです! ありがとうございます!!


ロングヘア女性が言った。


「でも、ルミっていったいどんな人なんだろうね? 全然情報あがってないよね」


「高ランクの探索者なんじゃないかな?」


いえ……高ランクではありません。


「実は学生だったりして?」


ボブカット女性が言う。


ロングへア女性が答える。


「いやー、まさか。普通に社会人でしょ」


いえ、そのまさかなんです。


というか、あなたたちの後ろにいますよ。本人。


「次の配信楽しみだよね」


「ねー」


そんなことを語り合う二人。


あまりに嬉しい発言で、ルミは感激したが、それを表に出さないように気を付けた。

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