第2章15話:通学
靴を履いて玄関を開ける。
このとき、ついでに玄関ポストの中身を確認しておく。
うん、何も入ってない。
玄関を出て、エレベーターを利用し、マンションの一階へ。
一階の端にある集合ポストに寄って、ここでも投函がないか確認する。
うん。
何もないね。
集合ポストを去って、マンションの一階入り口を通過して、外に出る。
――――鞘坂市(さやさかし)。
長野県にある、人口9万人ほどの市。
人が多すぎず、少なすぎず、住み心地の良い街だ。
マンションを出ると、正面と左の二つの道がある。
このマンションは住宅街の曲がり角の位置にあるのだ。
ルミは正面の道を進んだ。
左右にモダンハウスの民家が立ち並ぶ。
中年の女性が二人、道端で世間話をしている。
そのまま直進すると、横断歩道が見えてくる。
車がぽつぽつと走っていた。
チャリンコに乗ったお兄さんが歩道を渡っている。
ルミは横断歩道を渡らず、右に曲がった。
そのまま直進する。
7分ほど直進を続けると、交差点にたどり着く。
信号待ちの歩行者たちが横断歩道の手前で携帯をいじっている。
交差点の対岸には、通勤途中であろうスーツ姿の男女が、だるそうに立っていた。
さすがにここは車の往来が多い。
ルミは、この交差点も右に曲がった。
そのまま直進する。
この道の途中、スーパーマーケットやカラオケボックスがあるのだが、今は用がないのでスルーする。
と、そのとき。
横を歩いていた女性がいた。
ぼさぼさのウェーブ髪で、パンツスーツ姿の女性である。
歩く速度が同じぐらいだったので、たまたま並んで歩く形になったのだ。
彼女は、猫背で歩きながら、独り言を言った。
「月曜日、マジ死んでくれませんかね」
とても感情のこもった声だった。
さらに彼女は続ける。
「我々人類は、月曜日から仕事や学業を始めなければなりません。ゆえに、日曜日から月曜日に切り替わるときの絶望は、何物にもかえがたいものがありますね。月曜日の朝が来るたびに、地球が爆発すればいいのにと思ってしまいます」
女性の目は死んでいた。
ただ、月曜日に対する憎しみの炎があった。
「一週間の中で、これほど人類に絶望を与えた曜日があるでしょうか? いや、ない!」
反語まで使って憎しみを表現していた。
どれだけ月曜日が嫌いなんだ、この人……
「ああ……月曜日がだるい。月曜日とは、人の精神だけでなく身体にも影響を―――――」
さすがにやばい人だと思ったので、ルミは歩く速度を落として、彼女から離れることにした。
女性は独り言を続けながら、スタスタと歩き去っていった。
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