第1章8話:大部屋



ルミは地上を目指して階段を昇る。


いよいよ、1階まで昇ってくる。


しかし、ダンジョンのエントランスに当たる、1階最初の通路までやってきたとき……


そこがなぜか、通路ではなく大部屋に変わっていた。


そして大部屋に、ドラゴンウルフの群れが大量に湧いている。


50匹はいるだろうか。


そんなドラゴンウルフたちの目が、一斉にルミを見つめてくる。


「ん……こんなところに部屋があったでしょうか?」


しかもウルフがやたら多いな……と思って、ルミは困惑する。


――――実は、超難関ダンジョンでは、ボス討伐後にモンスターの大量湧きが発生することがあるのだ。


特徴としては、ダンジョンの出口となる部屋や通路が大部屋へと変わり、そこにモンスターが大量発生するというもの。


これは超難関ダンジョンでしか発生しない特有の現象である。


そして、この現象は今まで世間に周知されることがなかった。


かつて、この大量湧きに遭遇した探索者パーティーが50年前と30年前にいたのだが、生還することなく死んでしまったからだ。


もちろん、ダンジョン外部にメールや連絡を飛ばしていれば、死ぬ前に情報を伝えるぐらいのことはできたかもしれない。


しかし、当時はまだダンジョン内から通信を飛ばす【ダンジョン無線】という技術が存在していなかったので、ダンジョン外へ情報を伝達する術はなかったのである。



―――――しかし。


今回は、違った。


ルミはこのとき、史上はじめてこの現象を記録し、配信データとして全世界に流すことができた。


極めて貴重な資料である。


映像をリアルタイムで視ていた探索者業界の者たちは、さっそくこの大量ポップについて、報告や分析を始めることになった。





さて、大量のドラゴンウルフにエンカウントするという、常人なら発狂するような状況であるが――――


ルミは余裕の微笑みを浮かべていた。


「まあ、邪魔になるなら叩くまでですね」


次の瞬間、彼女は一番近くにいたドラゴンウルフを殴り飛ばした。


さらに続けざまに二匹目を蹴り殺す。


楽々とドラゴンウルフを蹴散らしながら、敵中深くまで入り込んでいくルミ。


「グルルルルウッ!!」


そのときドラゴンウルフたちがブレスを吐こうとした。


ルミは告げる。


「ブレス攻撃? いいんですか? 味方に当たってしまいますよ?」


これだけ密集した状態で、ドラゴンブレスを吐いたら、他のドラゴンウルフに当たってしまうのは確実だ。


ルミの言葉を理解したのか、あるいは自身で思い至ったか、ドラゴンウルフたちは苛立ちを含んだ様子でブレスを諦めた。


そこからはもう、乱戦である。


いや、これを戦闘と呼んでいいのだろうか?


ほとんどルミが一方的に、ドラゴンウルフを蹂躙しているだけだ。


ドラゴンウルフにとっては悪夢のような光景だっただろう。


たった一人の敵を止められない。


それどころか、圧倒され、次々と仲間がやられていく。


知性のない獣ですら、自分の置かれた立場というものを理解しただろう。


半分ぐらい死んだあたりで、戦場から逃亡するドラゴンウルフも出始めた。




同接60万にさしかかろうとしていたリスナーたちも、大盛り上がりである。




『ルミやべえwwww』


『とんでもない配信だな』


『ドラゴンウルフ湧きすぎやろwwww』


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』


『かつて存在したことがない光景w』


『ドラゴンウルフを相手に大乱闘wwwwwww』


『最後の最後で祭りやんけwwwwwww』


『こんな状況、普通なら絶望するのに……』


『雑魚がどれだけいても、ルミの敵にはならんwwww』


『ドラゴンウルフの群れを圧倒!?wwwww』


『蹂躙してて草』


『ここ大部屋だったっけ? なんか地形変わってない?』


『剣使えよw』


『素手で殴り殺すという手加減wwwww』


『この配信主、やりたい放題やなw』


『いけええええええええええええ! ぶっ潰せえええええええええええええwww』




まるでお祭りのような時間が過ぎ去っていく。




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