第1章7話:隠し部屋……



ルミはふと考える。


「ボスの所持品なら、高く売れるかもしれませんね」


彼女は倒した騎士から大剣を回収しようとする。


アイテムをバッグに回収する際の方法は、アイテムに触れた状態で【アイテム・イン】と唱えること。


これは頭の中で唱えてもいい。


ルミは大剣に触れて、脳内で詠唱する。


大剣が一瞬、光を帯びたのち、消失した。


ようやくまともなドロップアイテムを回収した瞬間であった。


「さて……」


ルミは振り返る。


王座の手前。


そこに宝箱が出現していた。


さっきまではなかったものだ。


ボス討伐報酬。


ここにくるまでの道中で見つけた宝箱とは違い、明らかに豪華で、ゴージャスな宝箱であった。


ボスをソロで倒したとき、このように金ぴかの宝箱が現れる。


いわゆる【ソロ特典】である。


パーティーでのクリアに比べて、レア度の高いプレミアアイテムが手に入るのだ。


ルミは宝箱にゆっくりと近づいた。


「何が入っているでしょうか」


期待に胸を膨らませながら、宝箱を開ける。


中に入っていたのは、緑色の石であった。


「緑の石ですか……」


つまり【スキル石】だ。


スキル石は、使用するとスキルを習得することができる石である。


触れると、どんなスキルを手に入れられるのか把握できる。


さっそくスキル石に触れてみる。


「ん、これは……」


ルミは目を見開いた。


スキル石から脳に流れ込んできた情報。それは……



◆◆◆


【瞬間移動のスキル石】

瞬間移動スキルが取得できるスキル石。1回使うと砕ける。


◆◆◆


おお……!


あの鎧騎士が使っていた瞬間移動が使えるようになるのか。


それはありがたい。


ルミはスキル石を回収して、アイテムバッグに放り込んだ。





『なんだ? 何をゲットしたんだ?』


『またゴミ石じゃないだろうな』


『緑の石だからスキル石やろな』


『超レアスキルが入ってそう』


『難関ダンジョンのソロ特典のスキル石……伝説のスキルとか入ってるんじゃないか?』



と、ちょうどそのとき同接が50万を達成した。




『同接50万』


『同接……50万!!』


『ルミちゃん50万おめ』


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』


『あああああああああああああああああああ』


『おめでとう』


『おめでとう!!』


『祝50万達成』


『この配信……人気すぎる!』


『スキル石おめ!!』


『何のスキルか教えてや』


『クソ人気で草』


『うっひゃああ。ついに大台に乗ってしまいましたなあ』


『50万はマジでやばい』


『同接50万の女だあああああああああああああああ!』





コメント欄が盛り上がる。


ただしここにきて、同接の伸びが急激に鈍化し始めた。


ボス戦というピークを越えて視聴を終える者が出てきたのである。


それでも伸びのほうが大きかったが、そういった視聴離脱者の影響を受けて、トータルとしては伸びが緩やかになっていった。


一方で、チャンネル登録数の伸びは加速することになる。


視聴をやめる前に、チャンネル登録ボタンを押していくユーザーが多かったからである。





ルミはきびすを返す。


「さて、もう用はありませんし、帰りますか」


歩き出す。


ボス部屋を退出して、階段を昇りはじめる。


途中、まだ残っていた魔物を蹴散らしていると、ふとルミは思った。


(そういえば、隠し部屋とかないでしょうか?)


ルミは考える。


単にボスを倒してダンジョンを出ただけだと、あまりに芸がないのではないかと。


なので、この配信動画に見せ場を作りたいと思った。


それなら隠し部屋を発見するのがいいだろう。


(よし、ダンジョンを出る前に隠し部屋を探しましょう!)


――――隠し部屋は壁の向こうにある。


しかし、正確にどこの壁かはわからない。


まあ、手当たり次第に探すしかないかな……と思ったルミは、いったん剣をアイテムバッグに収納する。


そして近くの壁を素手で殴り始めた。


ドォォオンッ!!


ズガァァァンッ!!!


壁が爆発したように砕ける。


剣の腕もさることながら、ルミは打撃力も極めて高かった。


しかし、突如ルミが壁を殴り始めたことで、視聴者は困惑した。




『……!?』


『え?』


『急に壁殴り始めたぞ!』


『何してんのwwwwww』


『唐突の奇行で草』


『隠し部屋探してんのか?』


『【悲報】新人配信者、狂うwwwwww』


『ワロタ』


『あーそうか。隠し部屋探してるのか』


『殴って隠し部屋探すのかよwwwwww』


『草ww』


『無言で殴り始めるなwwww』


『あかんコレはマジでwwwww笑うwwww』


『これにはドラゴンウルフも困惑w』


『このレベルのダンジョンだと、力だけで壊せる隠し部屋って少ないだろ……』


『せめて一言いってからじゃないと、発狂したのかと思うやろwww』


『隠し部屋を探してるとは限らんぞw』


『状態異常じゃねーのwww』


『狂気の壁パンチwwwww』


『最初からイカれた攻略をしてたけど、ここに来て一気に突き抜けたなwww』





そのとき曲がり角の先で、ドラゴンウルフが現れた。


余裕で蹴り殺したあと、さらに壁を殴り続ける。


そうして魔物を瞬殺しながら、隠し部屋を探したが、一つも見つからなかった。


(ダメですね……一向に見つかる気配がありません)


これ以上探しても見つかる気がしない。


残念だけど、今日はこのぐらいにしておこうか。


ルミはふたたび上階への階段を昇り始める。

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