第1章5話:ボス
ダンジョンにはボスがいる。
最深部にいることもあれば、節目となるフロアにいることもある。
最奥のボスは【ダンジョンボス】と呼ばれている。
途中のボスは【中ボス】と呼ばれている。
今回のボスは、ダンジョンボスである。
しかし、5Fという浅層なので、視聴者の多くは中ボスだと思っていたが……
「5階が最下層ですか。初心者向けのダンジョンですから、そんなものですかね? まあ、サクッとダンジョンボスを片付けて、録画の編集をしましょうか」
ルミだけは、勘違いの末に、ここがダンジョンボスの部屋であると言い当てていた。
さて……ルミがボス部屋に突入する。
ボス部屋は、まがまがしくも美しい宮殿だった。
さながら魔王が居座る謁見の間ともいうべき内装。
奥に王座がある。
そこに、全身を鎧で包んだ戦士が座っていた。
まがまがしい闇色の鎧騎士。
体格は巨体だ。
2メートルはあるだろう。
「……? 人間ですか?」
ルミは尋ねた。
人型をしており、もしかすると探索者である可能性もあったからだ。
しかし、返答はない。
静かに鎧騎士が立ち上がった。
柱に立てかけていた大剣を手にとり、構える鎧騎士。
ルミは言った。
「まあ、さすがに人間じゃありませんよね。では討伐させていただきますね」
ルミもまた、剣を構えた。
瞬間。
鎧騎士の姿がかき消える。
「……!?」
文字通り、消えたのだ。
透明化ではない!
ルミは警戒心を張り詰めた直後、斜め後ろから気配がした。
即座に振り返り、剣を振るった。
ガキィンッ……!!!
剣と剣がぶつかる。
消失していた鎧騎士が姿を表わしていた。
ルミは冷静に、いま起こった現象を分析する。
「なるほど。瞬間移動……ですか」
おそらく鎧騎士のスキルだろう。
こんな敵がいるのかとルミは感心する。
さらに鎧騎士が攻撃を繰り出してきた。
大剣とは思えぬ高速の連撃。
速さだけでなく威力もあり、ルミの細剣とぶつかるたびに、周囲に風圧が飛んで壁をえぐり散らしていく。
しかも要所要所に瞬間移動を織り交ぜ、自身の位置を変えながら連撃を放ってくる。
そのときルミが隙を見つけて斬撃を繰り出した。
だが、鎧騎士は瞬間移動でいきなり20メートルほど距離を取る。
思いきり空振ったルミ。
彼女が唖然とした一瞬の隙に、鎧騎士がまたもや瞬間移動をおこない、今度はルミの背後に現れる。
鎧騎士の斬撃。
高速で振るわれる大剣が、ルミの身体を横薙ぎに切断せんと迫るが――――
間一髪のところでルミが前方に転がって、背後からの攻撃をかわした。
(厄介ですね……)
素早く起き上がりながらルミは内心でつぶやいた。
『鎧やべえwwww』
『これは死ねる』
『敵つよすぎワロタ』
『剣術使う魔物ってたまにいるけど、ここまで極まったやつは初めて見たわw』
『瞬間移動は反則すぎるw』
『こんなん勝てねーだろ!』
『ルミも負けじと斬り返してるぞ!!』
『瞬殺されないだけでもすげーよ主は』
『瞬間移動チートwwwww』
『間違いなくSランクモンスターやな』
『瞬間移動って……しかも剣速も尋常じゃない。ソロで戦う相手じゃない』
『【悲報】難関ダンジョンのボス、無事チート』
『死ぬぞおおおおおおおおおおおおおおお!』
『これは魔王騎士』
『よくまともに打ちあえるな主は』
『うおおおおおおおおおおおおお!ルミたあああああああああああああん!がんばええええええええ!!』
この戦闘動画は当然、視聴者たちによってスクショや録画などで保存され、即効でSNSなどに拡散されていた。
難関ダンジョンのボス戦は貴重な資料でもあるということで、探索者協会なども拡散に協力し始めた。
SNSはもはや大旋風だ。
尋常じゃないペースで同接数を伸ばしていく。
このときの同接は25万を突破していた。
(むむ……さすがボス。なかなか手強いですね)
ルミは鎧騎士の剣術に感嘆する。
敵の攻撃が早すぎるし、重い。
いや、それだけじゃない。
フェイントや瞬間移動を織り交ぜて撹乱してくる。
しかもコロコロと剣撃の威力やタイミングを変えるチェンジオブペース。
魔物とは思えない戦略的な戦い方。
ルミは、まるで達人と死合っている気分になった。
だが……
それゆえ、高揚した。
「面白い……!」
ルミもまたギアを上げる。
彼女は、ここまでは弱い魔物ばかり倒してきた。
……本当はそれらは弱くもなんともないハイランクの魔物なのだが、ルミにとってはただの雑魚モンスターでしかなかった。
しかし、このダンジョンボスは違う。
互角に打ち合える強敵。
そこそこ本気で殴りあえる相手。
ルミは不敵な笑みを浮かべて歓喜する。
「ハアアアアァァッ!!」
裂帛の気合を込めて、ルミは魔物騎士と剣を交える。
火花と激しい衝突音が鳴り響く。
しかし。
徐々に。
ルミが騎士を押し始める。
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