第1章4話:星石……



スキルプラクティスの部屋を出て通路を歩き始める。


コメント欄がさらに沸く。




『マジでスキプラ置いていくのかwww』


『しかも素材も回収しないwwww』


『ドラゴンウルフとタイラントオーガの素材忘れてますよ!!』


『なんで素材拾わねーんだwww』


『何しにダンジョン入ったのwwwww』


『すげー動画だな。しかも生配信かよ』




コメントはツッコミ大会だった。


しかし悪い雰囲気はない。


むしろ、珍妙な攻略をするルミを応援し、配信を盛り上げようという雰囲気だ。


同接5502人。


3秒後、5653人。


3秒後、5820人。


3秒後、6145人。


わずか3秒ごとに100人以上、視聴者が増えていく。


さらに、ここにきて、SNSで本格的に配信がバズり始める。


――――ソロでドラゴンウルフとタイラントオーガの3体同時撃破。


――――スキルプラクティスを放置していくという狂行。


それらがSNSで一瞬にして駆け巡り、ねずみ算式に視聴者を増やしていった。


結果。


2Fを抜けるころには、同接が1万人を突破し、そこからは一気に駆け上がって3万も突破した。


チャンネル登録数も5000人を越え始める。


驚異的なハイペースで人気配信者の道を駆け上がっていくルミ。


しかし、もちろん。


彼女はそのことに、全く気づいていないのである!





3Fも楽々と突破した。


3Fはそこそこ長く、ドラゴンウルフやタイラントオーガをたくさん狩ることになった。


特にドラゴンウルフは数が多く、ドラゴンウルフゾーンと言ってもいいフロアだった。


ここでルミはドラゴンウルフを斬殺しまくり、リスナーを驚嘆させた。


ただ、この3階の突破にはそこそこ時間がかかった。


フロアが広かったことと、かなり入り組んだ迷路であったからである。


しかし踏破に手間取ったあいだにSNSでは大きなバズの波が起こっていた。


それによって4階への階段を下りるころには、同接10万を超えていた。




と、4Fに到達してすぐ。


正面に続く通路。


その右側の壁に堂々と宝箱が置いてあった。


さっそくルミは開けてみる。


すると、宝石らしき石が入っていた。


「おお。宝石でしょうか。これは高く売れそうですね!」


ルミはその石をストックしておくことにした。


アイテムバッグに放り込む。





コメント欄がまたもや狂乱する。


なぜなら、ルミがストックした石は、ステータスを一時的にアップさせる【星石】


……のフェイクだったからだ。


つまり偽物。


宝石によく似ているが、地上に持ち帰ると、ただの石ころに変わってしまう。


クソみたいな石である。




『それ持っていくんかよw』


『それ宝石ちゃう。星石の偽物や……』


『よく出てくるやつやろコレ』


『星石の偽物は頻出だよな』


『偽物やんけ!!』


『ゴミに引っかかっててワロタw』


『スキプラを捨ててゴミ石を拾うのかよwww』


『見分け方しらんのやなwwww』


『【悲報】最強配信者、まんまとゴミに引っかかるww』


『つーかそこらの宝石よりスキプラ売ったほうが儲かるやろ』


『あかん……この配信者、面白すぎるwwwww』


『まあ俺もたまに引っかかるからな……』




ルミは剣術だけなら天下無双といえる達人である。


しかし、ダンジョン探索は初心者であり、世間知らずでもあるため、ところどころポンコツな攻略をしてしまうのだ。


剣術は凄いのに、攻略が下手。


その絶妙なギャップが、視聴者の心をわしづかみにしていた。





さて。


5F。


階段を下りてすぐ、一本道の通路が現れた。


歩いていくと、最奥に、巨大な扉が立ちはだかっていた。


「これは……いわゆるボス部屋というやつでしょうか」


ルミは周囲の状況を確認する。


扉の手前には石の台が存在する。


ここに手をかざせば扉が開く……というのが、ボス部屋の常識である。


ルミは台座に手をかざした。


すると、扉が横に開いていく。





『こんな怪物ダンジョンのボスって絶対やばいだろ』


『ソロで突入するん?』


『ここまで楽勝でもさすがにボスは無理やろ』


『マジでここで退いとけ!』


『自殺志願者かな?』


『ソロでクリアしたら特典があるからな』


『ソロ特典狙いか』


『でもボス見てみたい。自分ではこんなダンジョン潜れんから』


『いやー、盛り上がってきましたねwwwww』





ルミは扉の中に入っていった。


さあ、いよいよボス戦だ。

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