第1章3話:スキルプラクティス……



ドラゴンウルフを倒し終えたルミは、先に続く通路を歩き出す。


ちなみに、ドラゴンウルフの素材を回収するという意識は、彼女の頭の中にはなかった。


グランドオーガのときのように、回収を忘れていたわけではない。


ドラゴンウルフは低層に出てくる魔物なので、素材は大した売却価格ではないだろうと思ったし、アイテムバッグの容量を考えると、持ち帰る素材を厳選したほうがいいと思ったのである。


――――ただそういうときのセオリーは、とりあえずストックしておいて、あとで良い素材が手に入ったら、順次要らない素材から捨てていく……なのだが。


ルミはダンジョン探索者としては初心者であったため、そういう考えには思い至らなかった。




『あれ? ドラゴンウルフの素材は?』


『素材拾わねーの?』


『素材は無視していくスタイルw』


『グランドオーガの素材も無視してましたよね』


『素材忘れてますよwwwww』


『せめて牙ぐらい持っていけよ』





視聴者たちのツッコミも、ルミは気づかない。


ただしドラゴンウルフを圧倒したということは、スクリーンショットなどで記録され、すぐにSNSに拡散された。


ここでドラゴンウルフ討伐のスクショがインフルエンサーの目に留まった。


そして、なんとインフルエンサーがこのスクショ画像と生配信を拡散した。


一気に視聴者数が倍増する。


と、


ちょうどそのとき。


ルミが歩いていた通路に、2体のグランドオーガが現れた。


やはりこの2体も透明化していたが、さすがにグランドオーガと戦うのは二度目。


ルミは余裕でグランドオーガたちを斬り殺し、血の海に沈めた。




『おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』


『マジでやばいぞこの女wwww』


『透明化してたよな敵』


『すげー』


『あんなん突破できんやろ』


『めちゃくちゃ強いやんけ! なんやこいつ……』


『ステルス使う魔物が2体も出てくるとか、頭おかしいダンジョンやな』


『こいつ天才すぎる』


『人めっちゃ増えてる?』


『コメの流れ速くなってきたな』


『ルミって本名?』


『素材拾わない縛り』




同接200人。


3秒後、同接241人。


3秒後、同接285人。


3秒後、同接350人。


ほんの数秒のうちに、同接数が増加していく。





その通路の先には階段があった。


下りると2Fにたどり着く。


いきなり大部屋だ。


敵3体。


ドラゴンウルフx2


タイラントオーガx1


なお、どちらの魔物も、ルミは名前を知らなかった。


初心者向けの雑魚モンスターだと勘違いしていた。


「まずはオオカミのほうから片付けますか」


そうつぶやいてから、ルミはあっという間にドラゴンウルフを瞬殺。


その後、ほとんど時間をかけることなく、タイラントオーガも難なく撃破。


ふたたびコメント欄が沸いた。




『うおおおおおおおおおおおおおおおお!』


『すげええええええwwwww』


『瞬殺で草』


『ドラゴンウルフ2体とタイラントオーガ1体って、ただの地獄やん』


『ソロで来るダンジョンじゃねーwwww』


『そうか……こいつソロか……ならほんまに頭おかしいな』


『どこのダンジョンやねん?』


『ドラゴンウルフを雑魚みたいに狩っててワロタ』


『まあAランクかSランクダンジョンやろ』


『こんな鬼ダンジョンにソロでいくとか、イカれてると言いたいところだけど、楽勝で攻略しててビビる』


『誰か特定しろよ』


『仮面外してくれ! 頼む!』




「ん?」


そのとき、大広間の端に宝箱が現れた。


さっきまでは無かった宝箱だ。


「宝箱? ああ、魔物を倒したから出たんですね」


ルミは推測を述べながら、宝箱に近づいた。


それをパカッと開ける。


んー。


石?


淡い紫色に光る石だ。


結構デカイ。


バスケットボールぐらいのサイズはある。


真ん中に変な模様が描いてある。


見たことない石だね。




『あああああああああああああ!』


『超レアアイテムきた』


『スキルプラクティスか』


『スキプラ!!』


―――スキルプラクティス。


スキルの成長速度アップ効果がある石。


持ってるだけでスキルの成長が速くなるレアアイテムだ。


『いいなあああああああああああああ!!!!』


『相場1億円の神アイテムや!』


『一時期すげー有名になったよな、この石』


『上級スキルを育てるには欲しいアイテム。運良すぎ』


『売ったら1億やん。おめでとう!』




コメント欄は興奮していた。


同接は1000人を越え始め、コメント速度もかなり高速になっている。


ルミは、石を手にとってつぶやく。


「んー。まあ持って帰ってもいいですけど、こういうよくわかんない石を持ち歩いてもしょうがないですよね。デカイですし」


――――スキルプラクティスは誰でも知っているレベルの超有名アイテムである。


ただ例によって、ルミは世間の常識に疎く、スキプラの存在を知らないのであった。


「もっと奥にいけばレアアイテムもありますよね。アイテムバッグの容量も無限じゃないので、これは置いていきましょうか」


彼女はスキルプラクティスを無造作に宝箱へ戻した。


そして奥の通路に向かって歩き出す。




『ちょっwwww』


『うそおおおおおおおおおおおおお!?』


『ソレ置いていくのwwwww』


『1億円が!』


『ええええええええええええええええええええええ』


『まじかよwww』


『1億ごときはいらねーってかwww』


『取りに戻ってくるよな? あとで持って帰るんだよな?』


『狂気wwwwwwww』


『誰かこいつに物の価値を教えてやれ!』


『コメント流れ速すぎ』




ルミが奥の通路に入る。

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