第23話 逃げ場のない戦場
それから湊月達は一本道を進み続けた。後ろからは先程の男達が物資を運んで追ってきている。
しかし、湊月はそんなことよりももっと考えるべきことがあった。それは、この最悪の状況からどうやって生還するかだ。
湊月の予想だとまだもう少し余裕があると思っていたが、予想以上にムスペルヘイムが押している。このままでは早いペースで日本軍が抑えられ負けるだろう。
だとしたら、この状況をどうにかする一手を打たなければならない。しかし、今の物資ではそんなものは無さそうだ。やはり、策を練って少しづつ削るしかないようだ。
「……シャドウ、大丈夫ですか?」
「ん?あぁ。少し考え事をしていてな」
「やはり、今の状況はまずいですか?」
「あぁ。まずいな。今こうして物資を送ることは出来ているが、恐らくもうまもなく名古屋支部は落とされるだろう。この孤立した状況で一気に戦況をひっくり返すことが出来ればいいのだが、今の物資ではそれは出来ない。唯一望みがあるとしたら、アイツらが持ってきたものだけだ」
湊月は冷静に考えてそう言う。すると、月華団はその言葉を聞いて少し緊張感を覚えた。
しかし、意外なことに何故かパニックを起こすことは無かった。きちんと冷静に湊月の話を聞いている。
「あの、シャドウ様、土砂崩れを利用するのはどうですか?山の上ですし、それに乗じて逃げ出せば……」
「いや、無理だな。それはいい案だが、今の我らに土砂崩れを起こすほどの動力がないたとえどれだけ爆薬を集めようと、せいぜい地面を少しえぐるくらいだ」
女性の案を聞いて湊月は少し考えるが、すぐにそう言う。その会話を聞いていた他の人たちもその案が使えなくなって言葉を失った。
「……あ、シャドウ、それならこの通路を使って逃げるのはダメなんですか?物資を運ぶことが出来るのなら、逆にここから逃げることも出来るんじゃないんですか?」
「それも無理だ。恐らくこの道はムスペルヘイムにバレている。だから、ここから逃げようとすればすぐに出入り口を塞がれるだろう」
「っ!?じゃ、じゃあ、シャドウはどうやってここから助け出すつもりなのですか!?」
「事前に作戦は伝えたはずだ」
「ですが、あの作戦では成功しません!無謀です!」
「いいや、無謀ではない。お前達はなぜ名古屋支部がここまで逃げてきたにもかかわらず、わざわざ七星剣まで出動させて物資を調達したのか分からないのか?」
「「「っ!?」」」
湊月のその言葉にその場の全員が驚き目を丸くした。そして、琴鐘が湊月に言う。
「おいおい、七星剣ってまさかさっきの7人がそうだっていうのか!?」
「あぁ、そうだ。アイツが日本とムスペルヘイムとの戦争で、ムスペルヘイムにひと泡吹かせたという男だ」
「マジかよ……」
皆は衝撃の事実に言葉を失う。中には七星剣に会えたことを喜ぶ者もいたが、大半は緊張して何も言えなくなっていた。
「じゃあ、改めて作戦を伝える。我々は名古屋支部と合流し協力関係を作る。そして、その後何人かがイガルクの近くまで隠密行動をしながら近づく。そして、イガルクの足元に手榴弾を投げ込め。その後俺は敵のイガルクを奪いさらに撹乱させる。そうしてできた道を駆け下りて助け出し我々も逃げるぞ」
「シャドウ、道はどうするのですか?ここは山ですよ」
「道なら問題は無い。この山には日本軍が逃げ込んだ時に作った道がある。それに、ムスペルヘイムの軍事車両を頂上近くまで持ってくる道もあるからな。そこから逃げ出す」
「ですが、そこには敵が集中してるのでは無いですか?」
「あぁ。だから、そのためのイガルクだ。イガルクで蹴散らしながら進む」
湊月は作戦を説明したあと月華団の団員の質問に答えていく。団員はその会話を聞いてどんどん作戦が現実味を帯びてきたのを実感する。
そして、それと同時に緊張もする。これから自分達は国をゆるがすことをするのではないか。そう言う不安から緊張が団員を襲う。
それに、失敗すれば皆死ぬ。そんな恐怖もあった。
そして、それは湊月も例外では無い。湊月は今の状況に緊張して、そして、楽しんでいた。
初めてこれだけでかい仕事をするのだ。湊月は今この瞬間を、これまでやられてきたことをムスペルヘイムにやり返す絶好のチャンスだと思った。
「どうしました?シャドウ……」
「いや、何でもない。それより、合図を決めておく。まず、俺があいつらの前に出て注意を引く。俺が喋りだしたら作戦開始してくれ」
「「「了解!我らの意志は全てシャドウ様の元に!」」」
全員そう叫んで湊月に忠誠のポーズをとった。湊月はそれを見てニヤリと笑うと服を整え、立ち上がった。
「そろそろだ。準備しろ」
湊月がそう言うと全員前を向いた。そして、その一本道を抜け山の頂上へと出る。皆はその光景を見てもう一度気持ちを入れ直した。
そして、車を軍の中の駐車場みたいなところに停める。そして、車の中から出た。すると、あとから来ていた七星剣が隣に車を停め、中から物資を取り出す。
そして、シャドウの前に来て言った。
「先に俺達の指揮官に話をしてもらう。来てくれ」
七星剣の男はそう言ってシャドウを先導し始めた。
「全員行った方がいいのか?」
「いや、何人かでいい」
「そうか、なら、山並と玲香に来てもらいたい。良いか?」
「分かりました」
「分かった」
湊月の言葉に玲香と山並は了承する。そして、七星剣の男は3人揃ったのを見ると再び歩い出した。
「シャドウ、他の皆は何をしておけば良いのですか?」
「作戦の準備を始めておいてくれ。それと、万が一を想定して車で逃げられる準備もしておいてくれ」
湊月がそう言うと、月華団の全員が準備をし始めた。そして、車で逃げられるように準備もしておく。
湊月達はそんな姿を横目に軍の中へと入っていった。しかし、湊月はその瞬間なにかの異変に気がつく。それは、知らない人だった。月華団の団員では無い。だが、何故か湊月はその人のことを知っている気がした。
湊月はそのことを不思議に思いながら足を進めた。
それから何分か歩き続けると、七星剣は湊月達をエレベーターに乗せる。そして、最上階へと向かう。
湊月はその間さっきの人に着いて考えていた。それは、女性だった。とても綺麗な女性だった。しかし、湊月はその人を知らない。だが、知っているような気がする。
こんな不思議なことは普段は無い。恐らく何かしらの理由があるはずだ。そして、最も怪しいのはフォースだと思う。恐らくフォースが関わっているはず。
そして、フォースと言えばシェイドだ。湊月がフォースを使用している時は基本的にシェイドと感覚やら色々とリンクしている。だから、恐らくシェイドの記憶が湊月に流れ込んできたのだ。
「……シェイド、あの女に見覚えがあるか?」
湊月はシェイドに誰にも聞き取れない声で聞いた。すると、シェイドは言う。
「うん」
湊月はその言葉を聞いてニヤリと笑った。
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