第22話 愚者
それから湊月達は愛知県へ向けてノンストップで走り続けた。そして、東京から大体4時間ほどで到着した。湊月は愛知県へ入ると真っ先に茶臼山に向かうのではなく、その山から少し離れた場所に向かい、そこで車を停めた。
「シャドウ、本当にここでいいのか?」
山並はそこに着くと、車の中で湊月に問いかけた。
「あぁ、問題無い。ここで待とう」
「待つ?今すぐ名古屋支部を助けに行かなくて良いのですか?」
玲香は湊月の言葉を聞いてそう問いかけた。すると、他の人も同じようなことを言ってくる。
「そうですよ!シャドウ様、早く行かなければ名古屋支部が落とされますよ!」
「名古屋支部が落とされてしまえば俺達はどうしたらいいんだよ!」
「早く行きましょうよ!」
月華団の人々は次々にそう言ってくる。しかし、湊月は落ち着いて説明する。
「そう焦るな。今茶臼山はムスペルヘイムの軍に包囲されている。そんなところにお前達はどうやって”バレずに”行くつもりだ?途中で説明したはずだ。今回も隠密行動をすると。以下に俺にフォースがあると言えど、ここにいる全員を助けることは出来ん。これは1番大事なことなのだがな、俺はお前達の命が大切だ。誰一人失いたくないと思っている」
湊月は全員の前でそう言った。そして、さらに続けて言う。
「もう一度説明する。我々の目的は名古屋支部を我々の傘下に入れることだ。そうすれば物資に困らなくなる。それに、軍自体の戦力を増強させられる。だが、それにはやはり策というものが必要になる。無謀と正義を間違えるな。正義感だけではやっていけない。勝ちたいと思うなら俺を信じろ。そして、俺の言うことを聞け」
湊月は静かな口調でそう告げる。そして、全員の顔を見たのか、首を横に振った。しかし、仮面をつけているせいで本当にその目が全員に向けられたのかは分からなかった。
だが、それでも月華団の団員はその言葉だけでとても嬉しくなる。そして、目の前にいるシャドウという男……いや、男か女かも分からない存在に対して希望や期待などの正の感情を抱いた。
「シャドウ!万歳!」
そして遂に、琴鐘がそう言い出した。どうやら琴鐘はシャドウに魅了されたらしい。琴鐘がそう言い出すと、他の皆も続けてシャドウを賞賛する言葉を送り出す。
遂には、山並すらもシャドウという存在を認めてしまった。そして、その時湊月は初めて月華団全員から
湊月は、さっき言った言葉が心の底から本気という訳では無いが、桜花のため、そして桜花の望みであった平和を実現するため、月華団という組織をまとめあげ必ず誰一人として失うことなくムスペルヘイムを潰すと決めた。
「ですがシャドウ、それだとしたらここは一体どこでなんの施設なのですか?」
「フッ、お前達は、包囲されアサシンブレイカー……まぁ、多分イガルクだと思うからイガルクによってバリケードを作られた山の頂上にどうやって物資を届けると思う?それに、名古屋には七星剣と呼ばれるものがいると聞いた。だが、そいつらは今ここにいない。もし居たのであれば、もう少し戦況は変わってくるだろう。なんせ、七星剣の中に希望の一星と呼ばれているやつがいるらしいからな。だが、そいつらは居ない。恐らく物資をどこかに受け取りに行ったのだろう。だが、どうやって物資を頂上まで届けると思う?山を登るか?」
皆はその言葉を聞いてハッとした。そして、突如全員が窓の外を見て周りを見渡し始める。
すると、後ろから車が来ているのが見えた。湊月は山並に少し移動して欲しいと伝えて移動をする。すると、ギリギリ2車線でも入りそうだ。
湊月達は車をどけると、後ろから来る車を待つ。すると、その車は湊月達の近くに着くと止まった。どうやらその車は8台ほどで、倉庫のような形をしている。おそらく中になにか入っているのだろう。
「……」
月華団はその車を見ながら待っていた。そして、車の中から降りてくる人を見ると、湊月はニヤリと笑う。
「どうやら当たりを引いたようだ」
湊月は誰にも聞こえないようにそう呟くと、その降りてきた人達がこっちに来るのを待つ。
「お前達何者だ!?」
そして、その中の男が近寄ってくるなりそう言って銃を構えた。湊月はそれを見て驚くことも無く言った。
「もう分かっているでしょう?」
その言葉に男は少し沈黙する。そして、後ろにいた仲間に合図をとる。
「フフフ、そう怪しまなくていい。俺は見方だ」
「フンッ!その言葉を信じろと?」
「別に信じる信じないはどうでもいい。これは事実だからな」
「それが信じられねぇって言ってんだよ!俺の目からしたら、お前は仮面を被った敵にしか見えないぜ!」
男はそう言って湊月を指さして怒鳴る。すると、湊月は一瞬沈黙した後突如笑い出した。
「フフフ、フハハハハハ!愚かにもほどがあるな。見た目や噂だけで決めつけない方がいいぞ。もっと人の内面を覗け。そして、相手が自分や自分の組織にどんな利益があるかを考えろ」
「あぁそうか、なら俺達はじっくり考えてお前が害悪だと理解した。悪病神は今すぐ消えてくれないか」
「フッ、そうか、ならお前達は死を選ぶのか?」
湊月は平然とそんなことを言う。何かを言い返したり怒鳴り返したりすることなくそんなことを言う。男は突如そんなことを言われて一瞬動揺したが、すぐに我に返って言ってきた。
「言わせておけば、俺達が弱いとでも言いたいのか!?」
「あぁそうだ。何か間違いでもあったか?」
「間違いだらけなんだよ!俺達のどこが弱いって言うんだよ!」
「全てだ。状況把握が何も出来てない。未来を見てない。冷静では無い。お前達はどこをとっても愚かでしかない。もしお前達が本当に強いのであれば、なぜここまで追い込まれている?そしてなぜこの戦場にいなかった?物資を取りに行くことが大事かもしれないが、それでもなぜ全員で行く必要がある?もっと良く考えろ。どうすればムスペルヘイムに勝てるのかを」
湊月は抑揚のないくらい声で男達にそう言う。男達はその言葉を聞いて図星なせいで何も言えなくなってしまった。
「……言わせておけば!お前はあのロボットを
「あぁ。勝てるさ。フォースがなくてもな。俺は実際に戦ったことがある。それで勝った。分かるか?これが実力の差だ」
湊月のその言葉を聞いて男達はぐうの音も出なくなる。そして、怒鳴りたいのに怒鳴れなくなってしまい身体を震わせる。
「もう一度言おう。状況をよく見て、相手が自分にとってどんな利益があるかを考えろ。そして、見た目で決め付けないで深淵を覗き込め。考えろ。今お前達にとって俺達が必要かどうかを」
湊月はそう言ったところでその男達が完全に堕ちたということを確信した。そして、仮面の下でニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「……分かった。中に入れる。そこからはうちの指揮官と話してくれ」
男はそう言って秘密の出入口の扉を開く。湊月は車をその中に入れ月華団を全員中に入れた。その後ろから物資を乗せた車も着いてくる。
「シャドウ、これはどこまで行けばいい?」
「そのまま進んでくれ。恐らく一本道だ」
湊月は車に乗りながらそう言う。山並は湊月が車に乗ったのを確認すると車を発進させた。
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