第17話 特別軍事研究部

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━それから1時間後……


「ただいま戻りました」


「おかえり」


「おかえりなさい。どうだった?あの、『第5世代アサシンブレイカー、アポロン』は?」


「そうですね。かなり動きやすかったです」


 男はそう言って頭につけているカチューシャ型コネクターを外した。


 ……ここがどこか説明すると、ここはムスペルヘイムの特別軍事研究部である。ここではムスペルヘイムでありながら、独自でアサシンブレイカーの開発を進めている。そのため、ついさっきまでこの男が乗っていたアポロンはムスペルヘイムの人は制作にあまり関わっていない。


「……あら。帰ってたの?」


「ん?あぁ、三空か。ただいま」


「おかえり。日彩ひいろ


 三空は謎の機体……いや、アポロンに乗っていた男を日彩と呼んだ。


「そうだ、シャドウはどうなったの?今かなり大騒ぎよ」


「誰かさんが失敗したからね」


 女性が日彩に聞いた。その後に、男性がおちょくるようにそう言ってくる。


「もぅ!カルムさんは空気が読めないのですか!?」


「うわっ!?ごめんごめん、殴らないでよリリムくん!」


 2人はそんな不毛な会話をする。日彩はそんな二人を見て笑ってしまった。


「ハハハ!」


「あ!笑ったね!?もぅ!バカにしないでよ!」


「すみません。それで、なんの話しでしたっけ?」


「シャドウについてよ」


「あぁ、そうでしたね。その事なんですが、すみません。シャドウを逃がしてしまいました」


「「「っ!?」」」


 3人は日彩の言葉を聞いた瞬間目を疑った。なんせ、あのアポロンから逃げ切ったということは、それほどの技量を持っているということだからだ。


「まさか、イガルクでアポロンに勝ったの!?」


「それじゃあ、それだけの能力があるということじゃん……」


「いえ、確実では無いですが、恐らくシャドウ自身はそこまで強くはないかと。途中でイガルクの動きが変わりました。同乗者がいたかと思います」


「だとしても、アポロンと渡り合うなんて……」


「技術力では負けてません。しかし、そのパイロットは技量は同じかそれ以下、機体性能が上であれば難なく勝てます。しかし、やはりシャドウと言う男が厄介かと」


「同感。シャドウ自身は強くないのに、フォースの使い方とか罠の張り方が上手すぎる。まるで私達がそこに来ることがわかってるみたい」


「三空もそう思ったんだね。カルムさん、リリムさん、恐らくシャドウは自らが戦うのは得意ではないかと。しかし、彼の頭はとてつもなく良い。今回もそのせいで逃がしてしまいました。次回からは、こちらも策を練る必要があると思います」


「そうね……それは後々やっていこうかな」


 そう言ってその場は静寂に包まれる。


「そう言えばだけど、今友達はどんな感じなの?」


 突然リリムがそんなことを言ってきた。


「湊月のことですか?」


「そうそう。その人。今どんな感じなの?」


「さぁ?最近会ってないんでわからないですね」


「明日休みでしょ。会いに行ってきたら?」


「そうですね。そうします」


 日彩はリリムにそう言って頷く。そして、少しだけ明るい笑顔で微笑んだ。リリムはそんな日彩を見て微笑む。


「何?すごくいい雰囲気なんだけど……」


 カルムがその様子を見てそんなことを言う。それを聞いた日彩が別におかしいこと等何ともないのに笑いだした。


「ま、とりあえず今日は休みなさい。戦士や騎士にだって休みは必要よ」


「そうですね。分かりました」


「ふふふ、いい子だわ」


「失礼します」


 日彩はそう言ってその場から離れて自室へと戻った。カルム達は日彩が出ていくのを確認すると、直ぐに作戦会議を始める。


「まさか、イガルクでアポロンがやられるとはね。僕の最高傑作だったんだけどなぁ」


「いえ、まだやられたという訳ではないですよ。それに、シャドウ自身はそこまで強くないと言う情報もあったし、今回はかなりお手柄だったんじゃないですか?」


「そうだといいんだけど……」


 そして、そこで2人の会議は終わった。その場には、アポロンが活躍したことなどの歓喜より、シャドウという謎の存在の脅威による恐怖だけが取り残された。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━1時間前……


「シャドウ……あれからどうなったんだろ……。突然フォースを使い始めるし、気づいたらどこにもいないし……」


「ん……」


 その時、遂に山並が目を覚ました。


「っ!?山並さん!大丈夫ですか!?山並さん!」


「ん……?ここは……?」


 玲香は山並が起きると直ぐに近づき呼びかける。すると、山並は少し辛そうな顔をしながらも体を起こした。


「うっ……!頭が痛いな……あれから一体どうなったんだ……?それにここは……」


「山並さん!」


「っ!?うぉあ!?」


 その時、突然玲香が山並に飛びついた。山並はそんな突然の事で驚きすぎて声も出なくなる。しかし、直ぐに玲香が泣いているのを見て頭を撫で始めた。


「悪かったな……俺のせいで……なぁ、あれから一体どうなったんだ?」


「それが……私も分からないんです。私が起きた時はシャドウがアサシンブレイカーに乗って謎の機体と交戦してました。それに……」


「ん?どうした?玲香」


「これは言っていいのか分からないんですが、シャドウはあのムスペルヘイムの兵が使っているものと同じものを使ってました」


「っ!?嘘だろ……!じゃあ、やっぱりシャドウは敵のスパイだったのか……!俺達を騙しやがって……!」


「ま、待ってください!シャドウはスパイなんかじゃないと思います!その謎の機体に乗ってた人も本気でシャドウを殺そうとしていたので!」


「……確かにそうだな……」


 山並は少しだけ顔を俯かせ何かを考える。そして、これまでの状況などを含めてシャドウがまだ敵と判断するには証拠が足りないとわかった。


「それより、これからどうする?アイツらと合流するにも、ここがどこだか分からない。玲香は分かるか?」


「いえ……すみません。夢中で逃げてきたので……」


「いや、玲香が謝ることじゃない」


「……まずはシャドウを待ってみましょう。彼なら何かわかるかもしれません」


「あぁ。そうだな」


 そう言って2人はアサシンブレイカーを隠し、自らも隠れることにした。


「それにしても、こんなことがたった1日で起こるなんてな。俺らがレジスタンスとして行動を始めた甲斐があったというものだよ」


「そうですね。これで私達も報われるのでしょうか……?」


「分からない。ただ、一つ言えることは俺達はルーザーじゃなくて日本人だということだ」


 山並はそう言って拳を強く握りしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る