第15話 必殺の一撃

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……人生にはいくつかの大きな壁がある。その壁は、時として大きな試練を与えてくる。その試練を超えたたものには祝福が、越えられなかったものには死が待っている。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……そう、人生には大きな壁がある。


「クソッ……!この数はキツいか……!」


「愚かな!ムスペルヘイムに手を出したのが運の尽きだ!どこで力を手に入れたかは分からないが、ここで死んでもらう!」


 リューナがそう言って遂にフォースを使った。それは、付与エンチャントだった。物体に何かしらの効果を付与する。それがリューナの能力だ。


 今回は、切れ味上昇、攻撃速度上昇の効果を剣にエンチャントした。


「っ!?」


 リューナはその剣で容赦なく湊月に切りかかる。湊月は影を出してギリギリで防ごうとするが、防げない。切れ味が上昇したせいで影すらも切られてしまう。


「危ない!湊月!」


 湊月は突如背中を引っ張られる。そのおかげで迫ってくる刃はスレスレのところで避けることが出来た。


「っ!?シェイド……助かった」


「安心してる暇は無いよ」


「あぁ。服の中に隠れてろ。何とかこの状況を切り抜ける」


 湊月はそう言って影で剣を作り出した。シェイドはそれを見てすぐに服の中に隠れる。


「……よく避けたな。だが、もう終わりだ」


 リューナはそう言って剣を振るった。湊月はそれを何とか避ける。そして、避けながら周りに影の針を突き刺していく。


「シャドウ!あなたのやってる事は間違ってるわ!ここで死になさい!」


 突然背後でそんな声が聞こえる。振り返ると光のフォースの持ち主がいた。既に光のフォースの持ち主は湊月に対して剣を突き刺そうとしていた。


「っ!?……間違ってるのは……お前らなんだよ!」


 その刹那、湊月達のいる空間が影に包まれた。その影は持っているものを黒く染めあげていく。


「っ!?」


 そして、気がつけば湊月が全然違う場所にいた。


「っ!?どこ!?」


「っ!?いつの間に!?」


「……はぁ……はぁ……!」


 湊月は肩で呼吸をしながら2人を睨む。そして、直ぐに影で逃げようとする。


「逃がさない」


 光のフォースの持ち主はそう言って湊月を斬ろうとしてきた。何とかその刃を避けるが、下手に逃げようとすれば今度は本気で切られかねない。


 湊月は何とか切られないように避けながらその場を離れる。


(クソッ……!逃げられないか。隙を見て逃げるか?いや、無理だ。あのスピードに勝てる気がしない)


「クソッ!この異例イレギュラーが!」


 湊月はそう叫びながら後ろに向かって走り出した。この場所は、長い廊下となっており、後ろに逃げればかなりの距離走ることになる。


 当然そうなれば、光のフォースの持ち主に分がある。それをわかっていない湊月では無い。


 何時でも反撃できるように対策しながら逃げ出した。しかし、すぐに追いつかれてしまい剣で切られそうになる。


「っ!?クソッ!光速さで動いてるのか!」


 湊月はそんなことを叫びながら何とか迫り来る刃を避ける。しかし、それもいつまでも続けるわけにはいかない。早くこの状況を脱しなければ、殺されてしまう。


 湊月はそう考えすぐに行動に出た。


「シャドウ。終わりよ」


「待て、これを見てもまだ俺を殺す気になるか?」


 湊月はそう言って何かを見せた。それは、爆弾のスイッチだ。


「なっ!?まさか、ここにしかけたというのか!?」


「あぁそうだ。事前に対策するのは定石だろ?」


 リューナはその言葉を聞いて足を止める。光のフォースの持ち主も足を止めた。さすがに爆弾が仕掛けられているとなると、下手に行動できなくなるらしい。


 ここまでは作戦通りだ。実際のところ、爆弾なんか仕掛けていない。だから、押しても爆発はしないのだ。だが、それではこの2人はすぐに動き出してしまう。


 湊月は頭の中で作戦を組み立て、足の裏に影のゲートを作り出した。そして、その中に誰からも見えないように3つほど手榴弾を投げ込む。そして、影のゲートを別の場所へと繋ぎ、その場所に投げ込んだ。


「フフフ、いい判断だ。だが、もう遅い」


 湊月はそう言ってボタンを押した。その瞬間、タイミングを合わせたかのように手榴弾が爆発する。そして、それと同時にある装置が動き始めた。


「っ!?」


 リューナは爆発が起きたことで少しだけ慌てる。そして、すぐに状況を判断しようとした。


 しかし、その隙に湊月が逃げ出す。リューナはそれを見てさらに慌ててしまった。


「待て!」


 リューナがそう叫ぶが、時すでに遅し。もう湊月は窓の近くまで走っている。


 しかし、その刹那、突如窓にシャッターが降ろされた。そのせいで窓が塞がれ逃げ道が無くなる。


「っ!?」


「残念だったな。これで逃げ場は無くなった。さぁ、その仮面外してもらうぞ!」


 リューナはそう言って剣を突きつけてきた。さすがにこの状況はまずい。逃げ場がなくなってしまったせいで、自分の作戦が大きく崩れる。


 そもそも、光のフォースの持ち主が来た時点で湊月の作戦は全て狂ってしまった。さらに言うなら、光のフォースの持ち主が来た時のために考えておいた策略も、相手の戦術の違いで全く使い物にならない。


「クソッ!戦略が戦術に負けるのか!?そんなことはありえない……!」


「残念だったな!これが実力の差だ!」


 リューナはそう言って剣に炎を付与エンチャントした。


「この炎で焼き殺してくれるわ!」


 そんな怖いことを言ってくる。こうなってしまえばもう湊月の負けは確定した。その場の誰もがそう思っただろう。


 しかし、湊月は今のこの状況を見て不敵な笑みを浮かべた。


「あと少しだ……」


「もう終わりだ!」


 リューナは真っ直ぐ突き進んできた。湊月は、そんなリューナを見て何もせずただ立ち尽くすだけ。


 光のフォースの持ち主はそんな湊月を怪しみながら真っ直ぐ向かってきた。


「死ね!」


 その瞬間、湊月の目の前に巨大な黒い影の矢が飛んできた。


 それは、真っ直ぐリューナと光のフォースの持ち主を狙って落ちてきた。しかし、ギリギリで光のフォースの持ち主が剣でいなして避けてしまった。


「っ!?まさかこれを防ぐのか!?なんという反射神経だ……!」


 思わず湊月はそう叫ぶ。しかし、たとえ防がれようとも関係ない。これだけの時間を稼げれば、影の中に逃げ込める。


 湊月はそう考え影のゲートを開いた。


 しかし、それが失敗だった。


「っ!?」


「さよなら」


 なんと、光のフォースの持ち主は一瞬で湊月の前まで来たのだ。そして、その時には既に剣を構えて斬りかかってきていた。


 湊月はその刃を目の前にして体が動かなくなる。実際のところ、湊月の能力は万能では無いのだ。


 影の中に入ろうとすれば、当然ほかの技は使えなくなる。


「しまった……!」


 白刃が湊月の首元目掛けて向かってくる。このままでは首を切り落とされてしまう。そうなれば、湊月は死ぬ。


「クソッ……!こんなところで死ぬ訳には……!っ!?」


 その時、突如足場が崩れた。どうやら先程の爆発で足場が崩れかけていたらしい。その場所を湊月が踏んで完全に崩してしまったようだ。


「っ!?」


 光のフォースの持ち主は咄嗟にその場から離れた。しかし、湊月は離れられずそのまま崩れゆく足場の中に落ちていく。


 ガラガラガラドカドカドカ!!!


 湊月はそのまま瓦礫の下敷きとなったのだった。

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