第9話 ムスペルヘイムの脅威
━━あれから一日がたった。この間、誰も行動を起こさなかった。その様子はまるで、嵐の前の静けさのようだ。
湊月はそんな中1人東京の街全体を見下ろせる位の高台に立って、街を見下ろしていた。
「……」
「……」
「……なぁ、シェイドはこの国を見てきたんだろ。どう思った?」
「急にどうしたの?」
シェイドは湊月の質問にそう返す。
「……いや、なんでもない」
湊月は少し暗い声でそう言った。
シェイドと湊月はまだあって間もない。だから、お互いのことをなんでも知っているという訳では無いが、これだけはわかる。
湊月は今かなり追い込んでいる。これからすることは世界を変えることと同じ。それを1人でやろうとしているのだ。
「ハッ!何考えてんだよ。1人じゃない。お前と俺の2人だ」
「湊月……。僕がこの国……いや、この世界を見てきて感じたことを言うよ。この世界はクソだ。ムスペルヘイムの奴らは自分達が全てだと思っている。僕はそれを変えたい」
「そうか……」
シェイドの言葉に湊月は少し安心したような声を出す。
「湊月はどうなんだい?」
「俺か?俺は……正直なところどうでもよかった。戦争で日本が負けた時もこんなことになるとは思ってなかったし、こんな状況になっても幸せに暮らせればそれで良かった。でも、あの時俺の妹は殺された。その1年後に両親も殺された」
湊月は暗い声で話を進める。シェイドはそんな湊月を心配そうに見つめながら話を静かに聞いていた。
「それで俺は理解した。ムスペルヘイムの奴らは俺達日本人のことなんかどうでもいいのだと。俺達日本人のことをルーザーと呼び、日本をセカンドロケーションと呼ぶ。奴らは俺らに人権なんかあると思っていない。ただの奴隷としか思っていないんだ」
湊月の言葉にシェイドは頷く。やはり、2人とも同じ気持ちだったようだ。
「見てみろ。目の前には崩壊した元日本の元東京がある。ここに住む人々は俺はそんな世界を変えようなんて思っちゃいない。ただ、俺の幸せな日常を壊したムスペルヘイムを皆殺しにしたいだけだ。俺はそう思ったよ」
湊月はそう言って優しい笑顔をシェイドに見せた。
「……そうだったんだね。……湊月、これからもよろしくね」
「あぁ。よろしくな。……あとさ、もし俺が暴走した時の話なんだけどさ、その時は俺のフォースを奪ってくれ」
「わかったよ」
2人はそう言って、多分もう見ることが出来ないかもしれない最後の優しい笑顔を見せた。
ズガガガガガガガガ!
その時、突如銃声が聞こえた。湊月は急いで街を見下ろす。すると、街の下の方で光が発生するのが見えた。
「クソッ!アイツらが日本人の虐殺を始めやがった!」
「どうする!?湊月!」
「……今すぐレジスタンス達に連絡する。そして、全力で迎え撃つ」
湊月はそう言って無線を取りだした。そして、無線を誰かに繋げる。
━━ピピッ
慌ただしい空気の中無線が繋がろうとする音が鳴った。
「っ!?」
「どうしたの!?」
「誰かと無線が繋がった……」
「何!?誰だ!?」
「分からない。だが、出ない訳には行かない」
レジスタンスの男はそう言って無線を繋げようとした。
「おい待てよ!」
「そうですよ!
レジスタンス達はその山並と呼ばれた男に向かってそう言う。山並と呼ばれた男は皆の話を聞いて少し考えたあと無線のスイッチボタンに手をかけた。
「ほんとにやるんですか!?」
「……あぁ。やらない訳には行かないしな」
山並はそう言って無線をONにした。
━━ピピッ
湊月の手に持っている無線が繋がる音がした。どうやら向こうがONにしたらしい。これで話すことが出来る。
『誰だ?』
「私だ」
『っ!?君は……!何の用だ!?それに、君は一体何者だ!?』
無線から激しい口調で怒鳴るような声が聞こえてくる。どうやらかなり怒っているらしい。
「そんなことはどうでもいい。今のお前達の居場所を教えろ」
『そんなことだと!?これは重要な事だ!君は何者だ!?』
「フッ、そうか。俺は自殺志願者は止めない。死にたいなら勝手に死ね」
湊月の脈絡のない話に一同は困惑するが、すぐに無線の中から声ぞ聞こえてきた。
『山並さん……そうですよ。今はどうやって逃げるかを考えないと……』
『おい!お前よ!お前が余計なことをするから日本人が虐殺されちまったじゃねぇか!』
突然無線の中から別の声がする。どうやら違う人が山並という人物の無線を使って喋っているらしい。
『ちょ、
『やめれねぇよぉ!お前のせいで……!お前のせいで!』
「そうか、ならお前はあの時死んでも良かったんだな。丁度いい。囮が1人必要だったからな。私がやろうと思っていたが、お前がやってくれるのか」
『『『っ!?』』』
無線ごしでも驚いているのが分かる。さすがに驚かせすぎたか?いや、そんなことは無いか。
「どうした?死にたいんだろ」
『死にたいわけないだろ!』
「じゃあなぜあの時私がした行動を余計なものと言った?もしあの時私が介入せねば、お前達は死んでいたぞ」
確かにそうなのである。あの状況から生き延びるなんて奇跡にほど近い。それがわかっているからこそ何も言えなくなる。
「さぁどうする?俺の言うことを聞くか?」
『……』
無線から言葉が返ってこなくなった。恐らく悩んでいるのだろう。
(堕ちたな。これでこいつらも俺の手のひらの上……盤上の駒だ)
『……なぁ、君は本当にこの状況を何とかできるのか?』
「お前達が言う通りに動けばな」
『わかった。なら、君に任せるよ』
無線の向こうからそんな言葉が聞こえてきた。これでこいつらは完全に自分のものとなった。
「フッ、いい判断だ。じゃあ早速お前達に命令だ。今すぐその場から離れ非常口の付近に行け。出入口の前にには爆弾を置いておけ」
湊月はそう言った。無線の向こうからは動揺している声が聞こえてきたが気にしない。
おそらくだが、湊月が今レジスタンス達が爆弾を持っていることを知っていることに驚いているのだろう。
だが、これくらい簡単なのだ。湊月は影を完璧に操ることが出来るようになって、感覚を繋げることが出来るようになった。そのため、今レジスタンス達がいる場所も遠隔で見えているのだ。
「よし、移動したらそのまま待て。恐らくだが、あと12秒後に入口が壊される。その瞬間に爆弾をライフルで撃て。そして爆発させろ」
『わ、わかった』
山並はそう返事をして数を数える。そして、ちょうど12秒後にアサシンブレイカーが入口を壊して入ってきた。その瞬間に山並は爆弾を爆発させる。しかし、アサシンブレイカーは少しだけ後ろに下がるだけだった。
それに、その場は爆煙で何も見えなくなる。それを見た湊月は不敵な笑みを浮かべて影の中へと入っていった。
「計画通り……全て順調だ。これで全て揃った」
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