第10話 我が名はシャドウ!

 ━━レジスタンス達はその光景を見て絶句した。なんせ、爆弾でアサシンブレイカーが壊れる訳でもなく、倒れるわけでもなかったからだ。


 それに、爆煙で周りが見えない。もし今襲われたら一貫の終わりだ。


 だからこそ山並は後悔していた。自分があの時にあの謎の無線の向こうの人物を認めてしまったことを。そして、皆に心の中で謝った。自分のせいで皆を死なせてしまうことを。


 しかし、そんな謝りも無駄に終わった。なんと、爆煙の中から人が出てきたのだ。その人は、黒いマントに黒いフードを被っていた。


 見るからに怪しい男だ。その男は爆煙の中から出てくると、静かにその場に立ちアサシンブレイカーを見つめていた。


『っ!?』


「え!?いつの間に!?」


 その場の一同は驚きを隠せないと言った様子で視線を集める。レジスタンスの1人、先程山並と話し、かつ琴鐘を止めていた女性が思わず声を出した。


『おい貴様、何者だ?』


 アサシンブレイカーから声がする。くぐもった声だ。これは多分スピーカーから流しているのだろう。


「フッ、私か?我が名はシャドウ。この世の全ての悪を断罪する者だ」


『シャドウ?ふざけてるのか?』


「私はふざけてなどいない。いずれ私のことが世界に認められるからな。それより、いいのか?早く撃たなくて。後手に回れば死ぬだけだぞ」


『何を馬鹿な。この状況がわかっているのか?』


 アサシンブレイカーに乗っているムスペルヘイム人はそう言って鼻で笑う。


 だが、それはレジスタンス達も同じ気持ちだった。なんせ、シャドウと名乗った男ははアサシンブレイカーがいるのに武器1つ持たずに立っているだけだからな。


 だが、レジスタンス達にはそれ以上に希望があった。先程の無線での会話で言った言葉。レジスタンス達が言われた通りに動けば必ず勝利するという言葉。あの言葉を皆は信じていたのだ。


 だからこそ逆にシャドウと名乗る男に恐怖を覚えた。アサシンブレイカーに殺されるかもしれないという状況で笑えるくらいの実力を持っている、その底知れない力に。そして、その男から感じる黒く暗い、影のようなオーラに。


「……フフフ、フハハハハハ!なぜ貴様は自分の方が優位に立っていると確信する?なぜ我1人簡単に殺せると思う?」


『何が言いたい?』


「人は見かけによらないということだ」


 そう言ってシャドウと名乗った男……湊月は指をパチンッと鳴らした。すると、アサシンブレイカーのいた地面が崩れる。


 どうやら最初に爆発させた時に地面にある程度ヒビが入っていたらしい。そこに湊月が影で攻撃をした。だから崩れたのだ。


 当然だがその程度でアサシンブレイカーはやられる訳では無い。だが、中に乗っている人は一瞬慌てるだろう。その一瞬が命取りだ。


 湊月はアサシンブレイカーに向かって手榴弾のような形にした影を投げ込んだ。これは手榴弾のような形をしているが爆発する訳では無い。一瞬にして広がり広範囲の敵を一瞬で影の中に飲み込むというやつだ。


 だから、アサシンブレイカーは一瞬で影の中に飲み込まれていき消えた。湊月はさらにもういくつか、本物の手榴弾を投げ込んだ。それは、約5秒ほどで爆発し、影を投げ込んだ場所を埋めてしまった。


(証拠隠滅も完璧。バレてもいない。上出来だな)


 そう頭の中で考えると振り返りレジスタンス達の元に歩み寄る。


「どうだ?私の力がわかったか?」


「……」


 湊月の言葉に誰も反応しない。どうやら皆、驚愕と恐怖で固まって言葉を失っているようだ。


「そう怯えるな。私は敵では無い」


「……そ、それなら仮面を外せ。君は何者だ?」


 山並はそう言って睨んできた。この仮面は何か言われるだろうと思ったが、やはり言ってきたか。だが、そんなことは気にしない。いつも通り平然とたって言った。


「この仮面を外すことは出来ない」


「なぜだ!?敵でないなら顔を見せろ!そうでなければ仲間に入れない!」


 山並はそう言って怒鳴る。しかし、湊月は何も気にしない。フードを脱ぎ仮面を手で押えながら高々に笑い声をあげる。


「フッ……フフフ……フハハハハハハ!愚かな!滑稽だ!貴様らは今の状況を理解してない!私がお前達の仲間に入る?バカを言うな」


 湊月はそう言って後ろにあった少しだけ高い瓦礫の山の上に飛び乗った。そして、もう一度フードをかぶりレジスタンス達に言う。


「我が名はシャドウ!正義を貫くものだ!君達も私の仲間にならないか?」


 湊月はそう言った。


 レジスタンス達はその男の提案に対して腹を立てた。なぜこんな訳の分からない男の言うことを聞かなければならないのか。


 そのため、断ろうと思った。しかし、このシャドウという男の底知れない力、そのことを考えてしまいなかなか断れない。


「山並さん……どうするんですか?」


 先程の女性が聞いた。山並は少しだけ苦しい表情をして悩む。


「……フフフ、そうか。悩んでいるのか。なら1つ聞こう。お前達はアサシンブレイカーを倒せるのか?」


「アサシンブレイカー?」


「ほぅ、そこからか。アサシンブレイカーとは先程のロボットだ。別名、地上戦起動型自動殲滅兵器……要するに殺人ロボット。それをお前達だけで倒せるか?」


 湊月はそんなことを聞いてきた。だが、この時誰しも思っただろう。


 だと。


 だから、当然こう言う。


「無理よ!そんなこと出来るわけない!」


 先程から話していた女性とは違う女性がそう言って怒鳴りあげた。


「そうか。そうだろうな。お前達だけでは勝てない。だが、今俺は一機倒したぞ。その前も、俺は数機倒した。これが実力の差だ」


 そう言って怒鳴りあげた女性の前まで歩いて近づく。そして、近づきながら言った。


「さぁ選べ。お前達は俺と共にムスペルヘイムを潰すか、ここで俺と別れて死ぬか」


 その究極2択を突きつけられて、レジスタンス達は皆固まってしまった。こういう時はリーダーである山並が決めるものだが、こいつは見た感じそういうのを決断するのが苦手そうだ。


 だったらもうこいつらに選ぶことは出来ない。死ぬか生きるかの2択だからな。


 そして、ついに山並は口を開いた。


「わかった……お前の仲間になるよ」


 完全に堕ちたな。これでこいつらは完全に自分の手駒。使い捨ての駒に過ぎない。さて、どこで使い捨てるか……


「では、これより我らの拠点を探さなければだな。それに、名前も必要だ。フッ、やることが増えてきたな」


 湊月はそう言って不敵な笑みを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る