白石凪音の策略

「ゲリラライブ。即席で人を集めたんだ。」

「?????」

大輝の頭が分かりやすく???になる。凪音は笑って続ける。

「まず初めに、俺はサクラを何人か雇った。もちろんそれは、絶対に西の生徒会に情報が流れないと信頼できる、確かなやつに。

そしてその次に俺は、小早川を使ってダンスライブを放課後行った。それは全く告知なしのゲリラライブ。全校生徒知るわけがないので、もちろん西の生徒会の奴らも知らない。

初めに小早川の前にサクラの観客を何人か置く。そして残りの奴らは、帰ろうと裏門から出るやつ。第二体育館前を通るやつ、全てに声をかけていく。声をかけられたものが連れて来られたのは観客が数十人しかいないゲリラライブ。そして、ライブを行っているのは、学園の人気アイドル、小早川葵。ここで、連れてこられたやつは思うわけだ。

『これはとても貴重なライブなんじゃないか』ってな。ましてや横に、期間限定の10分間ライブ!!なんて書けば一発だ。人は自分だけが特別、選ばれしものであるということに優越感を覚える。そして、この優越感に浸っていたいと考えるんだ。

そのサイクルを何度も繰り返していく。もちろん、噂は風にのって運ばれていく。

そうして、この人数が集まる。そういった算段だ。」

「なる、ほど…でも、なんでそんなに慎重になるんですか?葵ちゃんのライブで人を集めるんだったら、もっと大々的に告知しても良かった気が…」

「それがだめなんだよ。」

「?????」

また大輝の頭に?マークが浮かぶ。

「それだと人は優越感を享受することができない。ましてや、小早川は、学年のアイドルと言っても、知らないやつのほうが断然多いのが現実。同学年では有名だが、他学年となるとさっぱりなんだよ。さらに、小早川は大して歌もダンスも上手くない。もし大々的に告知して失望されたらどうする?人は期待から失望に変わると、数え切れない負の感情を相手に持つことになるんだ。もっとも、普通に失望されるよりか数え切れないほどのな。このライブは、相手に自分だけは特別だ、という優越感をもたせることで、初めて成り立つんだよ。」

「なるほど!だからこんな場所を選んだんですね。まるで、自分が新しいものを発掘したかのように思わせるために!」

「ああ。ここを選んだのも、そんな理由だ。人がよく来る場所でライブを見つけても、あまり特別感は得られない。こういった、日常的に来ない場所でみつけるから、人は特別感なんてものを感じる。まああと、ここは意外にも南グラウンドや第一体育館に向かう生徒が通る通路でもあるからな。興味を持たれていないだけで、ここは頻繁に人が来る場所なんだよ。それを、昨日雄大に調べさせていたんだ。」

大輝は雄大の方をちらりと見た。雄大は、葵の横でパソコンをカタカタ鳴らしている。どうしてだろう、少しイライラした。

凪音の方に向き直って、その考えを払拭する。

「…でも、そこまで西の生徒会を警戒する必要ありますかね。だって、スピーチの場所は昨日までに選挙管理委員会に申請しないといけませんし。西の生徒会も、昨日大々的に場所の告知してましたし。」

「それが怖いんだよ。西の生徒会は、俺達のスピーチの場所を今日の午前中までに知っていたら、東のスピーチを妨害することができる、ということだ。」

「え?それって、いったいどういうことなんですか?」

「生徒会スピーチには、一日で大きく分けて2つある。『主』と呼ばれる、前日までに場所を申請しないと行けない場所と、『副』と呼ばれる、午前中までに申請を行わないと行けないやつだ。『主』は、例えば大きな体育館とか。グラウンドとか。講堂なんかでのスピーチを指す。端的に言うと、比較的大きい場所でのスピーチだ。そして、『副』とは、例えば渡り廊下前とか。正門前とか。あと、ここみたいな、小さくみんなから忘れられている場所なんかを指す。

2つの場所で申請時期が違う理由は、大きな体育館とか、グラウンドとかは、部活動や、他の要件との兼ね合わせがあって、使えない場合があるからだ。だから、そういった場所は、最低でも前日までに申請しないといけない。しかし、『副』と呼ばれる場所は、部活動や要件などによる制約がない。だから、当日の午前中までに、申請することができる。

俺たちは1つ目の『主』の場所でここを選んだ。理由は簡単。人が通る時間が、この時間帯が一番多いからだ。しかし、もし西の生徒会が俺達の場所を、当日の午前中までに知っていたとする。そしたら、妨害されてしまう可能性があるということだ。

ここの場所は一応、『副』に属しているからな。」

「なるほど…だから、サクラも絶対に信用できる人を雇った…」

大輝は、凪音の計算され尽くした作戦に脱帽した。やっぱりこの人は、腐ってもあの凪音さんなんだ。

「だが、ちょっとだけ、嫌な感じがするんだよな…」

「え…?」

「みんな〜!今日はありがとーう!これで私のライブは終わりだけど、これから私が所属している東の生徒会の生徒会長からスピーチがあるの!だから、お願い!優しいみんななら、もちろんきいてくれるよ、ね?」

葵が露骨にウインクをして、小悪魔的な笑みを浮かべる。もちろん、だれもそれに逆らうことはできなかった。少なからず、僕も。

凪音が葵のコールで壇上に上がっていく。階段を上がる凪音の表情は、どこか不安な表情に満ちていた。

「それでは紹介しましょう!我らが生徒会長、白石凪音さんで…」

「おいおいおい。これは奇遇だなあー。まさかスピーチする場所が被るなんて。こんな偶然あるんだなあ。」

高潔な声が体育館前に響く。全員が、その声の持ち主の方へと振り返った。

声の正体は、西の生徒会会長、鷹司清士郎だった。

「な、なん、で…」大輝がありえない表情で驚く。観客も徐々にざわつき始めた。

なぜか、西の生徒会のメンバーがここに居る。噂が広まったにしても早すぎる。まるで、事前にこの場所でスピーチをするのを知っていたかのように登場した。

鷹司は笑みを浮かべている。気が引けるほど、嘲笑うかのような笑みだ。

「まあ、予定通り俺らもスピーチをはじめるかあ。なあ、いいよな、凪音。別にスピーチ場所が被ったって。」

「…」凪音さんは何も答えない。

「おい、待てよ!お前ら、ちゃんと選挙管理委員会からの許可証はもらってんのかよ!」

おもわず声に出る。だって、こんなことはありえない。誰か、西の生徒会にこの場所でやることを教えていない限り、ここでスピーチをすると知っている人物は限られているのだから。

鷹司が、また不穏な笑みを浮かべる。

「ああ、持ってるよ。許可証。」

そう言って、許可証をひらひらと見せる。選挙管理委員会のスタンプの横に、『副』と書かれた丸が大きく描かれていた。

「じゃあ、始めようか。」

まるで準備されてたかのように用意された壇上に登って、鷹司は悠々と演説を始める。そのスピーチは、噂の通り別格で、自然と心が引き込まれそうな声と気迫だった。集団催眠をかけているようなそのスピーチに、東の生徒会側が集めていた生徒たちが、次々と西の生徒会側へと流れ込んでいく。

そして気がつけば、東の生徒会側は少数派となっていた。

「な、な…」

大輝はその光景にあっけをとられて、その場からどうする事もできなかった。

凪音も一応スピーチはしたが、西の生徒会側にかき消され、東の生徒会の惨敗となって、その日のスピーチは幕を閉じた。


次の日。東の生徒会室。

「凪音さんっ!一体昨日のことはどういうことなんですか?!なんで西の生徒会の人間が、僕達のスピーチと被るんですか!」

「まあ、落ち着け。…俺にもなぜかは分からない。あの状況を説明できるほどの理由がな。だが、一つ言えることは…


東の生徒会には、裏切り者がいる。ってことだ。





 

 

 

 

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