白石凪音の解決
「ごくろうさまです。選挙管理委員会委員長さん。」
「な、お前は…」
テニスコートの影から現れたのは、東の生徒会代表、白石凪音だった。
「どうして、お前がここに…」
選挙管理委員会の一面の驚愕の顔に、凪音はにやけて笑う。
「どうしてって。僕の大切な生徒会メンバーがあられもない罪で罰せられそうになっていたんですよ?そりゃ、助けるでしょう。善良な市民ならね?」
「くっ…おら、お前らいくぞ!」
トップの掛け声とともに、選挙管理委員会の一員は、足早にその場を去っていった。
「さーて。じゃあ、俺達も、答え合わせといこうかな。
裏切り者は一体誰なのか。それは…
小早川葵。君だろ?」
そう凪斗がジョーカーを飛ばした先にあったのは、葵の靴だった。
葵はジョーカーを拾って、内ポケットに入れる。
葵の表情は、いつもの葵からは想像もできないように曇っていた。
「私じゃないです。わたしは、裏切ってなんかいません!」
表情を取り戻し、いつもの葵に戻る。
「じゃあ、その証拠とやらを見せてやろうか。」
そう言って、凪音は自信満々に語り始めた。
「まず最初に俺は、東の生徒会メンバーの中に裏切り者がいると確定した。それはなぜか、なんて、とても簡単なことだろう。明らかにこちらの情報が相手に筒抜けになっているんだ。こんなこと猿でもわかる。
次に俺は、誰が裏切り者かを特定することにした。そして、ある作戦を思いついた。
それが今回の、おびき寄せ作戦。
まず俺が、賄賂を渡すという嘘を生徒会メンバーに伝えておく。
そして、その作戦を伝える中で、生徒会のメンバーの中で、場合分けをしておく。
一人は、完璧に信用しきるもの。今回の例だと、山下大輝。
もう一人は、全く信用しないもの。今回の例だと、平等院雄大。
最後の一人は、そのどちらでもないもの。今回の例だと、小早川葵。
作戦の全貌はこうだった。
まず、小早川と大輝を集め、賄賂の計画を明日実行することを伝える。雄大には、そのことを伝えない。
そしてさらに、大輝に作戦のもう一段階上を教えておく。それが今回行った、偽装賄賂作戦。賄賂なんてはなから、トランクの中に入ってないという作戦だ。
ここで裏切り者が俺たちにいるとなると、二つのケースが考えられる。
一つ目のケースは、もし大輝が裏切り者だった場合。」
「僕は裏切り者なんかじゃありませんよ!何年一緒に付き合ってきたと思ってるんですか!」
「ケースだよ、ケース。お前うるさい。黙っとけ。」
「は、はい…すみません。」
「それで、もし大輝が裏切り者だった場合、今回の西の生徒会が計画した作戦は関係ないため、何も起きない。このとき、雄大か大輝のどちらかが裏切り者の可能性が高い。
もし小早川が裏切り者だった場合、予定通り西の生徒会の計画は実行される.
この時は、小早川が裏切り者の可能性が高い。
そして起こったのは後者。小早川だけを狙った場合だった。前者が起こった場合は、また雄大と大輝の間で精査しなければならないと思ったが、その可能性はなくなった。
まんまとお前は、この作戦に引っかかってくれた。いや、俺がはめたというほうがこの場合は正しいかな?」
凪音はあからさまに挑発した。
「違いますっ!誤解です!」
しかし、葵はそんなあからさまな挑発には乗らず、あくまで裏切っていないという体で、話を進めた。
でも、葵ちゃんのことが好きだった僕から見ても、葵ちゃんが裏切るものだという事実は避けられないように思える。
「なんで私が裏切り者なんですかっ?!確かに、雄大くんには今回のことは何も伝えていなかったけど、どっかで盗み聞いていた可能性だってあるし、賄賂を受け取った3人の中の誰かが密告した可能性だって捨てきれないでしょ?!」
「確かに、この事件だけを見たらそうだ。だが、これまで幾度となく俺らの選挙活動を妨害してきたのがその三人と考えるのは、かなり無茶だ。これまでの犯行からしても、今回の賄賂の件と妨害の件は同一人物。また、雄大がどっかから盗み聞いていた可能性だが、俺らが屋上で密会をしていたとき、雄大には選挙管理員会との話し合いに参加してもらっていた。前日の暴行事件を受けての注意勧告だ。そのことは、その場に居合わせた委員長様から、しっかりと言質をいただいてもらっている。
俺たちが話していた瞬間、あいつは報告書を声に出してしっかり読んでいたと。
人間が喋りながら会話の内容を傍聴するのはまず不可能だ。
そしてあいつはその後の、誰に賄賂を送るのかのメッセージのやり取りも知らない。
状況から考えても、まず無理だ。」
「で、でも…」
「もう無理だよ、葵。その陰キャメガネにそれ以上抵抗しても無駄なだけだ。」
高圧的な声が聞こえて出てきたのは、西の生徒会代表、鷹司清士郎だった。
その鷹司は、葵の肩をがっしりと掴み、組んで見せた。
「賢いお前ならわかるだろ?この意味が?」
ニヤニヤにやけて、こちらを煽るように見つめてくる。
「わざわざ言わなくても、誰でもわかるよ。清士郎…お前は、ずるくなったな。」
「勝つためなら、何だってやるさ。」
ぶっきらぼうに彼は言ってのけた。
「それで、裏切り者がわかった今、お前はどうするつもりなんだ?規則には書いていなかったが、裏切り者なんて明らかな倫理に反しているだろう。」
凪音さんがそう言うと、鷹司は嘲笑うように答えた。
「倫理に反しているだと?馬鹿なことを言うなよ。実際の政治の世界では裏切りなんて日常茶飯事だ。誰かを蹴落とすためなら、そんなこと誰でもやってる。それに、俺は委員長様への顔が広いんでね。そんなことでいちいち咎められたりしないさ。」
「だけど、僕たちはお前たちを非難することはできる。裏切り者を使った政党なんて、信頼されるわけがない!」
大輝が二人の会話に入り込んで、声を荒げる。
すると、鷹司は大輝の方をみて、くすくす笑い始めた。
「ふはははっ。そんなこと意味がないよ。なぜなら、葵は可愛い女の子。どうせなら、その特権を利用しなくちゃね。」
「…ど、どういうこと?」
鷹司の不敵な表情に、大輝は混乱する。
「なあ、葵。お前は、東の生徒会をなぜ裏切った?」
「…私は…東の生徒会の皆さんに、酷いことをされました…」
葵を見ると、彼女は泣いていた。
その発言と涙に、大輝は動揺を隠せなくなる。
凪音は唇を噛んで、無理に笑った。
「まさか、空想の被害を持ち出すわけじゃないだろうな?」
「ああ、そのまさかだよ。彼女は東の生徒会に酷いことをされた。それは紛れもない”事実”だ。なぜなら、こんなにかわいい子が、涙を流しながら、赤裸々に告白してるんだからな。」
「な、そんなの通るわけが…」
「通るに決まってんだろ。お前らと、葵の人気の差は天と地だ。誰からも信用されていないお前らが、何か言ったところで、変わるわけがない。
じゃあ、明日の学校新聞を楽しみに!アディオス!」
そう陽気に言って、鷹司は葵を連れて何処かへ消えていった。
その時の、葵の振り返った表情が忘れられない。
彼女は、笑っていた。
「これは、流石に参ったことになったかもな。」
「は、はは…」
僕らは、ただ笑うだけしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます