月が輝く帰り道

お互いが最後の挨拶を交わし

「じゃあ帰ろっか」

「はい」


僕たちはそれぞれのロッカーから、自分の荷物を取り出し、バックルームを後にし

お疲れさまでした

と仕事仲間に一言かけて、店を出た。


「じゃあ、また明日」

手をふり、帰路につこうとした時

「あの!よ・・・よければこの後食事に行きませんか?」

夕暮れの空に、恥ずかしそうな表情を浮かべている彼女に僕は、自分から言ったのに。


なんて事を思った。


話を戻して、問いに答えるなら


「良いよ、付き合ってあげる」


そう言えば彼女は笑顔で、お礼をのべられる。


「何処に行きたいの?」

歩きながら聞くと

「この付近にある牛丼屋ですかね!」

「牛丼って・・・ふふっ、女子力無いなー」

「牛丼なめないで下さいよ先輩!安くて美味しい、そして速い!このトライアングル構成がヤミつきの魔法なんですから!」


「はいはい、分かったよ」

本当に分かりました?と疑いの眼差しを向けらるが、話題を変えてやり過ごす。


牛丼屋の前で

「ほら、着いたよ」

「待ってました!」

ウサギみたいに、ピョコピョコしている彼女を置いて先に店内に入り、振り向いた。


「ボサッとしてないで速く入って食べようよ」

「はい!先輩!」


二人は注文して、待つ。

まだ初対面ランクなので気まずい空気が流れる。

「次のニュースです。昨夜、ウィンス・ナイト王を殺そうとした女が逃亡しております。

皆さん見つけたらこの電話番号までご連絡してくださいと政府から厳しく言われています」

「いやー怖いですね。でも私達には月の加護がありますからね。守ってもらえますよ」

専門家の余裕そうな態度にニュースキャスターも同じ考えの様だ。

「確かにそうですね。では次のニュースです」

「・・・・・。怖いなぁあの王は」


「??ごめん聞こえなかった」


「すみません。何にも言ってないです」


「お待たせしました!!大盛りの牛丼と、卵牛丼です」

彼女の前に置かれる大きい牛丼。

僕の方を見ればとても小さく見える。

「いただきます」「いただきます」


黙々と食べ続けて、あっという間に空っぽになる。


「めっちゃ食べるね」

「お腹減ってましたから」


そう・・・・

立ち上がり

伝票を持ち、会計をパパッとすませる。

「お・・・置いてかれた!!私がお腹いっぱいで動けないところを」

私も負けずに立ち上がり、会計をすませて

先輩に追いつく。


店の外に出たら、いつも変わらない月が浮かんでる。

「今度こそ帰ろうか」

「そうですね。・・・・・・先輩」

一呼吸を置いて

「月は綺麗に見えますか?」


予想外な言葉に目を見開いて

俯いてそして、

「僕はあんまり綺麗とは思わない」


彼女は何処が面白いのか分からないが

笑みを零した。


「珍しい人もいるんですね。皆アレを神様だとか神々しいとか言うんだから」


「・・・・・・・・」



「すみません。変な質問をして。さっ帰りましょう」



僕達は駅のホームでそれぞれの帰路の電車に乗るため別れた。



向こうのホームで彼女が電車を待っている。

気づかずスマホをいじっている姿が見えた。


電車が来てその後輩と重なって見なくなった時

窓を通じて一瞬だけ見えた、一匹のコウモリ。


それが何を指し示すのか、分からない。

でも既視感を覚える。


電車が出発した向こうのホームには後輩の姿もコウモリの姿も無かった。


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