土下座!
西順
土下座!
土下座こそ我が人生。
土下座無しに私の人生は語れない。私は幼少期より土下座とともに人生を歩み、今、土下座とともにその人生を終えようとしている。
私と土下座との出会いは、私が5歳の時だ。父が母を相手に土下座している姿を、今でも鮮明に覚えている。浮気をした父は、ビシッとしたあの姿で、鬼のように恐い母から許しを得たのだ。それは幼かった私には衝撃だった。
どれだけ泣き喚いても許してくれない、グズっても譲らない母が、父の土下座に折れたのだ。時世がら離婚が推奨されるような時代でなかったからといって、母から許しを得た父は、私にはヒーローに見えたのだ。
次の日から、私は何かやらかしたら母に土下座するようになった。オモチャを片付けなくて叱られたら土下座し、苦手なニンジンを残したら土下座し、夜遅くまで起きてゲームをしていたら土下座した。
当然全てが許された訳では無い。だが許されるケースがままあり、私はその成功体験に自信を付けていき、私は母以外にも土下座するようになっていった。
幼稚園でスカートめくりをしては土下座をし、祖父母と買い物に行ってはオモチャをねだって土下座をした。友達とのケンカで土下座なんて日常茶飯事だった。
その内に私は何時、何処で、どのようなタイミングで土下座をするのが最適であるかを、自らの経験則から導き出せるようになっていった。
それはなるべく人が多い場所で土下座をする事だ。人は一対一では中々首を縦に振ってはくれない。しかし人前ではどうだろう? 人には立場や建前など、人前になると途端に他者の目を気にして強気に出れなくなる習性がある。なので土下座をするなら人前だ。出来るなら人通りの多い繁華街のど真ん中で土下座するのが良い。野次馬に囲まれて逃げられなくなるから。
そんな私は、入社面接で土下座をし、会社で失敗しては土下座をし、いけそうな女子社員相手に土下座をし、取引先相手に誤発注の土下座をし、交際相手の両親に子供が出来たと土下座をし、上司に取り入る為に土下座をし、部下の失敗を帳消しにする為に土下座をして生きてきた。
そして今、私は医者相手に土下座している。日頃からの不摂生がたたり、死ぬ一歩手前まで病気が進行していたからだ。手術の成功率は20%だそうだ。絶対に成功させて欲しい。それだけでは心許ないので、私は神頼みの土下座も始めた。
土下座の神よ! 我が身を癒やし給え!
土下座! 西順 @nisijun624
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