第28話



 小峰は、その夜、シャンペーンを抜いた。

サエとグラスを交わして、ゆっくりとした時間が流れている。

そこで小峰は突然、例の宝石箱をサエに渡す。

サエは驚いたように小さな宝石箱を手に取る。


「開けてみて」


 と小峰は言う。

サエは大事そうに宝石箱を開けてみると、そこにはエメラルドで表現された葉の中心にダイヤモンドの周りをルビーで囲まれた美しい花のネックレスが入っていた。


「綺麗」


 と思わずサエが言葉を漏らす。


「付けてみて」


 と小峰に言われ、ネックレスを首に回すと、


「とても綺麗だ」


 と小峰も声を漏らす。


 それ以降、二人は何も言わず、時々笑顔を見せ合っては幸せそうに見つめ合う。

グラスに注ぐシャンペーンもなくなると、サエはペンダントを外し、小さな宝石箱へ戻そうとすると、宝石箱のイニシャルを声に出して読む。


「ジュエリーマルヤマ」


「今、なんて言ったの?」


 急に小峰が驚いたように声を出す。


「ジュエリーマルヤマって書いてあるよ」


「まさか、あの丸山か?」


「お知り合いなの?」


「昔、予備校に通っていたことがあって、その時の友人が大学を卒業してから宝石屋さんを経営し始めたんだ。偶然にしては出来すぎてるのかな」


「世の中に偶然はない、ってマルちゃんの口癖だったわね」


 とサエが言う。


「そう、必然の連続が思いがけない偶然のように思えるだけである」


 サエの言葉に続いて小峰が答える。


「ねえ、パパさん? 丸山さんに会いに行ってみれば? もしかしたらマルちゃんに会えるかもしれない・・・。」


「え、どうしてそう思うの? でも、僕も、そう思える。電話番号を調べて明日にでも連絡してみるよ」

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