第21話



 悪徳新興宗教の目的とは? そんなやり取り、香と綾が情報の共有をしながら、これまでの捜査の検討をしているところへ、一人の紳士がやって来る。


「いらっしゃいませ」


 と普段より大きな声で香と綾が応ずる。


「ここですね、ジュエリーマルヤマは」


「あ、はい。何かお探しでしょうか?」


 香は持ち前の美しい笑顔で答える。


「ええ、丸山君は予備校時代の私の教え子でしてね、久しぶりに東京までやって来たものですから、お土産でも買おうかなと思って丸山君に連絡したら生憎の休みだそうで・・・。あ、これ、丸山君からの差し入れです。どうせ店に寄るなら、買って行ってやってくれませんか、なんて頼まれたものですので。しかし、恩師を遠慮なく使うところは丸山君らしい、あはははは。遠慮なくお受け取りください」


 そう言うと、その紳士は大きな紙袋を渡した。

綾が丁寧にお礼を言い、紙袋を受け取ると、ちょっと重い。


「で、どのような物をお望みでしょうか?」


「ええ、田舎で、と言っても北海道の抜海村でお土産屋をしている娘に東京土産を買って帰ろうと思いましてね。ありきたりのお土産よりも私の教え子の経営しているジュエリーマルヤマでペンダントか何かを買ってあげて帰ろうか、とまぁ、そう言うことで、できれば選んでいただけると嬉しいのですが」


「かしこまりました。どんな感じのお嬢様でしょうか?」


「そうですねぇ。父親が言うのも何んですが、美しいと言うよりも可愛らしい感じで、一人娘の母親なんですけどね、明るい子なのに服装が地味なのですよ。だから、何んていうか、その、パッとするようなもので飾って欲しいかな、なんて思っているのですよ」


「承知いたしました。ではこちらへ、この棚にあるものなどは明るいイメージで装飾させていただいております」


「なーるほど、どれも良いですね。値段に糸目はつけない、と言いたいところですが、それなりのものを紹介いただければ嬉しいものですね」


 そうやって香が相手をしている間に、綾は大きな紙袋をデザインルームの小さな個室に運び込んだ。

そのうち、紳士は香の選んだネックレスを買って帰った。

確かに、それなりの値段のネックレスを買って店を出て行った。


「綾さん、社長の恩師、今はどんな仕事をしてられるんでしょうか?」


 そう言いながら香はネックレスから丁寧に外した紙の値札を綾に見せた。


「久しぶりのホームランだわ、これ」


「はい、ホームランですね」


 そして綾は、社長の恩師と言った紳士が置いて行った紙袋をデザインルームから持ち出して、中を見てみると、カップに入った珈琲と綺麗な箱が入っていた。


「これって、お昼ご飯ですかね」


 と言う香に、


「香ちゃん、この紙箱に書いてあるお店の名前知ってる?」


「あ、これって、向こうの通りにある有名なお店ですよね。食べたかったんだー、ここのケーキ、見た目も良いし、最高に美味しいって噂ですよ」


 紳士は短時間で帰って行ったので、紙カップに入ったアイスコーヒーの氷がまだ溶けていない。


「香ちゃん、お皿とフォークを持って来て」


「2枚と2本ですよね」


「当たり前じゃない、私も食べるわ」


「済みません、ダイエット中だと聞いていたように思ったもので」


「誰もそんなこと言った覚えがないわ」


 と、兎も角も、二人はショートケーキを三つづつ平らげ、アイスコーヒーを飲んで満足げに足を開いて寛いでいる。

新興宗教のことは、既に頭の片隅にさえもなくなっている。

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