第5話
朝起きると顎が痛い。
顎をさすりながら、昨日の夢のことを考えている。
「おかしい夢見てもうたな」
丸山はそう呟くと、もう一度、顎をさする。
「何処で打ったんやろ?」
「打ったんちゃうで、ワイが殴ってん」
丸山が倒れたソファーの横でぬいぐるみ?ロボット?のペンギンが呟くように喋る。
「ぺ、ペンギン」
「せやで、ぺペンギンやで。それと言うといたるけど。夢ちゃうで、まぁ、途中からお前、寝とったしな。そこは夢で聞いてたんかも知らんけどな」
「現実?」
「せやで、現実やで、夢やないで、目の前にワイが居てるやろ?」
「ペンギンが喋るんか?」
「せやし、現実に喋ってるやん? お前、物分かり悪いな。あとな、昨日の話やけど、態度を改めろ、って言うたやろ? 先ずは、喋り方を変えてみぃひんか」
「あんたは、そんな喋り方してもええんか」
「ああ、これな、ワイの専売特許やねん。喋り方、被ってるやろ。それな、ようないわ」
「それだけの理由でか」
「うん、せやで。お前な、その喋り方、自分の専売特許やと思うてたやろ。ちゃうかってんなぁ、これが。ワイの専売特許やってん、残念!」
丸山は、また怒りのようなものを感じだした。
一方、ぺペンギンはといえば、その様子を気にもしないかのようにお腹のポケットから煙草を取り出し器用に火を付ける。
そして、煙を吐き出しながら、
「お前も吸う?」
と言いながらシガレットケースを差し出すが、
「あ、お前には小さすぎるか、ごめんやで」
とうとう、というか、またもや丸山の怒りが爆発した。
「お前な、人をおちょくっとんのか」
そう言うと、ぺペンギンに掴みかかった、否、掴みかかろうとした。
そして、またもやぺペンギンは消えた。
そして、またもやぺペンギンは丸山の鼻先で現れた。
と思う暇もなく、ぺペンギンが空中で3回転すると左フックを放った。
見事に決まったぺペンギンの左フックで丸山は、またもや膝から崩れ落ちる。
ぺペンギンはバレーダンサーのように鮮やかに着地すると、
「学習できひん奴やなぁ、ええか? 間違いなんて誰にでもあるねんけどな、それを間違いであると気付いた者だけが直せるねん。分かってても直されへん奴もいてるよ、それは論外や。せやけどや、論外は置いといてやな、分かったら改める! それを学習言うんちゃうの? そう思わんか?」
「あう、あう、あう」
「どうしたん? お前、あうあう教の信者さんか何か? あうあう言うてたら何かええことあるの?」
「あー、あうあう」
「そうか? 何かええことあるんやな!」
そう言うとぺペンギンも、そのような言葉を真似てみる
「あー、あうあう。あー、あうあう」
・・・・・・・・。
「何にもええこと起きひんで?」
最早、両方の顎を押さえた丸山は抵抗する気力さえ失っている。
「あのな、そのままでええから、ワイの言うこと聞いてみいひん? その喋り方で顧客を増やしていったんやんな? でも、それって、以前の話やろ? 時代は変わる。お前が付いて行けてへんだけなんちゃうの? しかも、売ろう売ろうとして・・・。そんなんで宝石みたいな贅沢品、誰が買おうと思う? 二発めのパンチでお前が変わってくれるとは思わへんで、せやけどな、それやったら、先ずは外側から固めて行ってもええんちゃうかな? ええか、時代は変わったんや、お前はそれを分かったつもりになってるだけやねん。分かってたら、その昔のスタイルを変えようとか思うんちゃうの? 今一度だけ教えたる、お前がどんだけ考えた販売計画でも売り上げが上がらんかったら意味ないやろ? ワイが言いたいのはな、それやからあかんねんと言うことやないねん。これは悪い、と思った時に変更のきかん計画ほど最悪な計画はない、言うことや。顎、冷やしてよう考え・・・ろ? ・・・。ちゃうわ、頭、冷やしてよう考がえろ! 以上や」
「あい(はい)、あー(は)、あう(は)、あい(はい)」
「そう、愛や」
「あ、あい(はい)」
「そや、愛、や」
「あい(はい)」
「何回も言わんでもええのよ?」
「はぁ(は)、あい(はい)」
「丁寧なやっちゃなぁ」
「・・・、はぁ(は)、あ(は)、い」
「もう、ええて、よう分かったから、そう、愛、やねん」
「あ(は)、あー(は)、い・・・。はぁ〜い・・・」
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