第4話



 丸山武は、湯呑みに入ったお茶を啜りながら、コンビニ弁当を食べている。

その横でソファーに座ったペンギンが同じくお茶を啜っている。


「なんか、お前、落ち着きないな」


 当然である、自分がお茶を淹れようと立ち上がったのは良いが、何故かついでに得体の知れない生き物にもお茶を淹れてしまった。

まだ、現実と異世界の間を彷徨っている感覚である。


「なぁって、そんなガツガツ食ってどうすんの」


 食べなければ生きていけない、それだけのことである。


「しかもやぁ、そんな仏頂面して食ってても美味しないやろ」


 確かに、ここ最近、食事で美味しいと感じたことがない。


「ええこと教えたろか」


 大きなお世話である。

自分が今教えて欲しいと思っていることは、この苦境を如何に脱出するかである。

それなのに、この呑気な得体の知れない生き物は、何か別のことを言おうとしているようにしか感じられない。


「食事はな、美味しいと思いながら食べなあかんねんで」


 そら来た、案の定である。


「何でか言うたらな、美味しいと思わな感謝できひんやろ? それはな自分を生かしてくれてる命への祈りやねん」


 なんだこいつ、何かの新興宗教の回し者なのか? それにしてもロボット?を送って来るとはみょうに凝っているではないか。


「生きるって言うことは、そう言うもんちゃう?」


 新興宗教の回し者ロボット。

そう思うとだんだんに腹が立ってきた。


「なぁ、分かる?」


 相手が新興宗教の回し者ロボットだと分かると、怒りをぶつける事に歯止めが効かなくなってくる。

このロボットを遠隔操作している奴が店の外の何処かに潜んでいるのであろうと思えてきた。

そうなってくると、これ見よがしに大きな声で騒ぎ立てたくなってくる。


「あのなぁ、さっきから何を言うとんねん、ええ加減にせんかい!」


 丸山はとうとう怒りを露わにしてしまう。

一度吐き出されると勢いもつくもので、ソファーから立ち上がると食べ残しのある弁当箱を得体の知れないロボットに投げつける。


 とその瞬間、ロボットの姿が消えた。

いや、消えたように思えただけで、実際には目の前で止まっていた。

すると、その物体は空中で3回転したかと思うと、小さな翼で右フックを放った。


 放たれたパンチは見事に丸山の顎を捉え、丸山は再びソファーに崩れるように座り込む。


「おんどれー、ワイを誰や思うとんねん。ワイはな、宇宙ボクシング、ジュベニール級、星間ランキング3位のボクサーやっとったんじゃ。それとなぁ、言うといたるわ、感謝する、いうことはな、感謝するいうこと自体が生きる、言うことやねん。ええか、人に感謝できひん奴は人に頼み事をする資格もない言うことじゃ。お前のやってる仕事いうのんは、売り買いだけにあるんか? ちゃうやろ! 喜んでもらえるものを届ける、それがお前の仕事ちゃうんか! そいでもって喜んだ人がお礼をする、そうやって皆んなが幸せになっていけたら、そうやってみんなが感謝の気持ちを忘れんかったら其処には愛いうもんが広がるんちゃうの? よう考え晒せ! このドアホ。それとな、ワイに二度とタメ口はきくな、態度を改めろ。ワイかって痛い思いはさせとうないねん。でも、今のお前には仕方ないやん? それと、明日から、シラスと氷3っつ、買うてこい」


「・・・・・・・・。」


「って聞いてる? てか寝てる? あら気絶? てことはワイ、これ全部、独り言を喋ってただけなの?」

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