第3話
丸山はポケットから出した煙草に火をつけると、煙を吹き出し珈琲を飲む。
家には帰らない。
何となく帰り辛い。
妻とは殆ど話をしない。
波に乗って営業をできていた時からだろう。
波に乗れば波に乗ったで忙しくて深夜に帰ってくる。
利益が落ちれば落ちたで遅くまで働く。
そうこうしている内に妻や子供との接点が失われていった。
家族のために金持ちになりたい。
そんな夢を持っていた男である。
丸山は最後の一息を煙と共に吐き出すと
?・・・。
違う煙草の匂いがする?
ふと部屋の中を見渡すが、誰もいる筈がない。
丸山は、残りの珈琲を飲み干すと買ってきたコンビニ弁当を開けようとする。
「あんなぁ、そんなもんばっかり食べとったら、めっちゃ体に悪いで」
丸山の体が凍りつく。
何年も前に丸山の商売仲間が強盗に入られた。
被害総額は1億円。
「なぁ、体に悪いって。それと、お前さぁ、ワイのこと強盗ちゃうか?って思たやろ。そら、突然現れたら気色悪いもんな、分かるよ。ほんでも、突然やないねんで、お前のかーちゃんから送られてきた目覚まし時計見てみ」
そう言われて、丸山はソファーベッドの横に置いてあるテーブルの上の目覚まし時計を見てみる。
煙の発生源はそこにあった。
そして、見事に煙を吐き出しているぬいぐるみもあった。
「こんばんわ」
「ぺ、ぺ、ぺぺ、ペンギン」
「相変わらずやな、この星の生き物は、またぺペンギンって呼ぶんかよ」
その言葉を聞いて、丸山は立ちくらみをしたかのように、一度は立ち上がったがソファーベッドに倒れ込む。
「そいでもって、気絶する、と。もうここまで来たらお約束としか言いようがないな」
ぺペンギンは、器用に翼の先で挟んだ煙草を嘴に持っていき、深く吸うとゆっくりと吐き出した。
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