第6話 ブラコン姉とのあまあま回?そんな事もない?

優夜にとってその日は、転入生の麗奈がクラスに来たり、久しぶりに超高校級の授業を受けたりと実際には9時間という短い時間だったが、数日間動いたような疲労を感じるほど濃密な1日だった。


 昼休憩が終わったあとも地獄の授業が続くと思われたが、午前とは違いおじさん教師ではなく女性教師だったため麗奈に良いとこを見せようとギラギラした目をしながらの授業はなかった。翠も麗奈と並ぶ美少女なため、普段からこのような経験をしているから頭が良いのではないかと納得と同時に心配にもなった。


「これからもこんな地獄が続くなら身体が持たないぞ......どうしたらいいんだ」


 人の悩みは時間すら忘れさせる。

 優夜が考え事をしてる間に学校から5キロ離れている家に到着していた。


 しかしそんな事は家に着いてしまえばリセットされる。

 誰しも家はこの世で最も安心できる自分だけの空間だろう。


優夜は家に入ると恋の靴があるのを確信した。


 「ただいま~姉さん。今日も早いね」


「おかえり! 何かあった? 今日の優夜疲れた顔してるよ」


 「今日転入生が来たんだけど、そのせいでおじさん教師達が張り切っちゃってね」


「お疲れ様! それで......おじさん達が張り切っちゃっうって事はその子可愛いの?」


恋は優夜が自分の下から離れてしまうのかもしれないと心配で僅かだが震えた声で聞く。


「可愛いよ。でも僕は少し苦手なタイプかも」


「苦手でも、もしかしたら急接近するイベントがあるかもしれないんだからね! 注意しないと」


優夜は自分が目立ちたいと思うタイプではなく、むしろ誰かの影に隠れるのが好きだ。

人付き合いも最低限しかして来ていない為、麗奈のようなグイグイくるような人に優夜は苦手意識を覚えていた。


「ゲームじゃないんだから、そんな急接近イベントなんて起きないよ。それこそ来月ある体育祭の実行委員に僕と麗奈が選ばれるとかじゃないと」


? 優夜...その子麗奈っていうの? 今日転入して来たのにもう名前で呼んでるんだね。お姉ちゃん妬いちゃうなぁ」


頬を膨らませて可愛く言っているが、その目はどす黒い闇を感じて可愛さの欠片もない。


「姉さん? 目が怖いよ...そんな今日初めて会った人より姉さんの方が大事に決まってるでしょ」


「お姉ちゃんの方が大事? ホント?」


「本当だよ」


恋の目から闇が消えて光が宿った。優夜から自分の事が大事と言われたのが余程嬉しかったのだろう。


「いつも通りなら毎年この時期に体育祭の実行委員を決めるよね? その麗奈って子を認めたわけじゃないんだから絶対に体育祭で実行委員に立候補したらダメだからね! ゲームみたいな展開が絶対起きないなんて保証はないんだから」


「やらないしやりたくもないよ。目立つとか以前に面倒そうだからね」


去年の実行委員に恋が選ばれたため優夜も自分に時間がある時は手伝いに行っていたが、想像以上に大変だと思っていた。体育祭で行う競技決めから競技中の審判を行ったりと、それだけなら特に問題ないように思うが1番大変なのは審判だ。審判をやる以上その競技に詳しくなければいけないため、短い期間でルールを全て覚えなければいけないのだ。


「うん、実行委員は面倒だからね...やる必要なし。でもそっか、体育祭かぁ大学あるから優夜の頑張ってるとこ見れないんだね...」


優夜は現在2年生、恋は大学の1年生だ。体育祭は平日に行われる。平日は恋も講義があり見に行くのは無理だろう。


「無理なことを言っても仕方ないし、今度の日曜日に行く駅前の抹茶スイーツ店の話でもしようよ」


優夜は特に体育祭には興味関心がなく、そんな暇があったら恋と一緒に出かける方が大事だと考えている。面倒事が起きたらその時に対処すればいいが優夜の考えだからだ。


「そうだね。そういえば、そのお店だけどねさっきテレビで紹介されてたよ! 若き天才パティシエが作る抹茶スイーツ特集に出てたの」


「な、なんという事だ......遂にこの街にもテレビに出るような有名抹茶店が現れたか。僕にとっては今年で1番のニュースだよ」


優夜は大の抹茶好きだ。将来は抹茶で有名な京都に住みたいと思っているくらいには愛している。料理やお菓子作りの事は全然知らないはずなのに抹茶だけには詳しく食べただけで何を使っているのか当ててしまうほどだ。

しかし抹茶以外は何を使っているのかさっぱり分からないのが優夜らしいとこだ。


優夜の抹茶愛を知っている恋は抹茶なんかに優夜を奪われてしまうのかと最近は頭を悩ませていた。

そして、悩んだ末に考えたのが自分もスイーツを作れるようになればいいのではないかとの結論だ。


「本当に抹茶好きだねぇ、そんな抹茶好きな君には私の作った抹茶ケーキをプレゼントだよ!」


恋が作った抹茶ケーキは見た目だけなら店に売られていている物と遜色なく濃い緑色のスポンジと白い生クリームは素人とは違い均等に並べられている。


「いつの間にそんなのを作れるようになったんだ......しかも美味しそうだね。いただきます......モグモグモグモグうん、美味しいよ、でもこれただの緑色のケーキだね。抹茶の味あんまりしないよ」


「がーん頑張って作った抹茶ケーキがまさかの抹茶要素が見た目だけだった!? そんなぁぁショボーン」


「これ抹茶ケーキ風ショートケーキとして店に出したら売れそうだよ。お菓子作りの才能あるんじゃないかな」


今度の日曜日に行く店で何かお菓子作りのコツを聞きたいと思った恋だった



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