第5話 自称彼女登場!?

優夜と朝陽は麗奈を連れて食堂に移動する。


 「ここがこの学校の食堂だよ。初代理事長がグルメな人だったらしくて、和食、洋食に中華を好きな時に食べられるように、調理専門学校の生徒の実技も兼ねて毎日ここでメニューを作ってもらってるんだ。まあそんなことしたら当然厨房も大きいのが必要になるからね。完成したらこんな体育館並に広い食堂になったんだってさ」


 地元では有名な調理専門学校で、そこを卒業することが出来れば進路は安泰とまで言われており、世界的にも有名なシェフも輩出していると聞く。


 しかし、優夜と朝陽は料理に詳しくないため有名なシェフと言われても誰のことかは全く知らない。


 「そうだな、あと学食だから値段も安い。デザートも充実してるから毎年この食堂目当てに入学する女の子も少なくない...... って鈴森さんどこ?」


 朝陽が優夜の言葉に付け加えて言うが、麗奈は優夜の話は聞いていたが、この後は朝陽に何か恨みでもあるのかと思うほど早く静かに食券を買いに動いていた。


 「朝陽、お前の話は全く聞かれてなかったぞ。嫌われてるとしか思えないけど何したんだよ」


 「何もしてないよ。でも、なんとなくだけどどこかで会ったことある気がするんだよな。その時に何かあったのかも?」


 朝陽も優夜のようにどこかで麗奈に会ったことがあるように感じると言う。


 しかしそれが気のせいなら、自意識過剰と思われ気まずい空気になるのは明らかだ。それ故に直接聞くようなことも出来なかった。


 「僕もどこかで会った気がするけど、思い出せないんだよね」


 「ま、そんな思い出せないことを思い出そうとしても無駄な努力だろ。今は昼飯食おうぜ!今・日・は俺の奢りだから好きなの食っていいぞ」


 「何言ってんだ今日は、じゃなくて今週はの間違いだろ。朝のあれは重罪だと言っただろうが。誤魔化そうとしてもダメだ」


 優夜としては思った以上に騒がれることはなく一安心だったが、それはそれこれはこれである。過去のことはあまり知られたくない優夜にはタブーな話題だった。


 「誤魔化せなかったかガードか硬いな。んで、何にするの?」 


 「僕は季節限定春の天ぷら定食に決めた」


 「は!?それマジで高いやつじゃん!他のに変えれませか?今月小遣いピンチなんですよお願いします」


 朝陽が必死になって優夜に変えて欲しいと頼むが、それもそのはず。天ぷら定食は食材が食材のため、1450円と学食だというのに桁が1つ違う生徒に食べさせる気を感じない高級メニューである。


 教師が食べているのは2人も見たことがあるが、生徒が注文しているのは片手で数えるほどしか見たことがない。


 「好きなの頼んでいいんだよな?じゃ頼むわ」


 言い返したいが自分の行動と言動に非があるため朝陽は優夜に反抗することなく渋々天ぷら定食と自分の昼飯を注文しに向かう。


 優夜としても少し高いものを頼みすぎたかと反省しながら、注文に向かう朝陽の背中を追う。


 そこで優夜の視界が突如暗闇に包まれる。しかし慌てることはない。暖かな人の体温が目を覆っていたため、それが停電ではなく誰かのいたずらだと分かった。


 「わたしが誰か分かりますか?まぁわたしのご先祖様はこの地を治める領主でしたから、ここに住むものとしては知っていて当然ですよね?」


 「こんなことをする人なんて知りません。どなたでしょうか?歴史はあまり詳しくなくて...」


「は?わたしが誰か分からない?自分の彼女の声と名前を忘れるなんて、記憶力がないでは説明がつかないわよ。あ、もしかして覚えてるけどわたしをからかって遊んでるの?仕方のない彼氏ね」


「その言葉遣いは、頭の中お花畑系お嬢様の安東あんどう翠みどりさんかな」


翠が言っていたのは本当で、その昔この地を治めていた立派な領主様だったと記録に残っている。


だが、このお嬢様は家柄が良すぎたのか歳を取れば取るほど我儘わがままに成長していき、今では立派な頭お花畑系お嬢様へと進化を遂げている。


「何その頭お花畑系お嬢様って、優雅なお嬢様って意味?ありがとう。そんな風に思っていたなんてね、やっぱりこの高貴な血を隠すなんて無理なのね」


優夜は貶すつもりで言ったが、翠からしたら褒め言葉に聞こえたのか、顔が紅葉のように赤くなり本気で喜んでいるのが分かる。


これが優夜から頭お花畑系お嬢様と呼ぶ所以だ。


「それで、聞いたわよ。あなたのクラスに可愛い女の子が転入してきたって。しかも席が隣なのでしょう?あなたが誰の物かその女に分からせる必要があるわね」


「いや僕は翠の物でもないから安心してくれ。僕が好きなのは巨乳で美人で優しくて、料理洗濯なんかの家事も完璧な女性が好きなんだ!」


それを聞いていた女子生徒は本気で引いていたが、中には違う反応をしている人がいた。


「ありがとう。それわたしの事よね?そこまで大きな声で愛の告白をしなくても大丈夫よ」


「違うから。お前のどこが当てはまってるんだよ?美人なのと巨乳なのは認めるよ。でも料理洗濯掃除が壊滅的じゃないか」


  翠は家事に関しては本当にダメダメだが、その容姿の良さから学校のアイドル的な扱いをされている。


  父親が欧州の出身で、目には見えないがキラキラと光り輝いているように見える金色の髪と、翠の名前の由来にもなったエメラルドのような翠色の瞳が特徴だ。そして髪と目だけではなく、日本人にはあまり見ない立派なπを持っている。思春期の青少年には心だけを狙撃された致命的な一撃となるだろう。


 実際優夜の姉である恋がこの学校に在籍していた時は、恋と並んで学校の二大美少女として他校からも一目見ようと数多くの生徒が見学に来ていた。


 しかし自らの美貌に自信を持っていた翠は昨年のミスコンで恋に敗れたのを切っ掛けに、せめて弟である優夜くらいは恋から奪ってみせると今現在も好みの女性の調査中だ。


 「それは将来一緒に出来るようになればいいの。今は今しか出来ないことをしましょう」


 「そうか、ならお前との会話より季節限定の天ぷら定食を食べる方が今は優先だな。ちょうど朝陽も来たからな」


 翠との会話をしていると、大粒の涙を流しながら天ぷら定食とタケノコの炊き込みご飯定食を持って優夜が座る席まで来ていた。あれだけ高いと言っていたのに自分にもかなり美味しそうな定食を注文していたあたり、どこかで自らの心を振り切ってしまったのだろうか。


 「ゆうや~持っでぎだぞ~その定食を見る度に俺のごどをおぼいだじでぐれよ!」


 「泣くなよ...お嬢様の翠がいるんだから金貸してもらえよ」


 「嫌よ。そこの金豚はお金絶対返さないと思うもの」


 翠は朝陽の見た目だけで言ったが、朝陽はお金をきっちり返す男だ。......新たな場所からお金を借りてと捕捉がつくが。


 「仕方ない。奢りは今日だけでいいから、そのブサイクな泣き顔早く直せよ!」


高い支払いを1週間続けなくてもいいと言われ、僅かにだが朝陽の目には希望が宿った。


そして、その後は特に何かが起きる事なく平和に昼食を取れた優夜と朝陽だった。


 

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