第4話 死んだ魚の目みたいだな
授業終了の鐘の音が鳴り、その授業を担当する教師が教師を後にする。
「やっと、終わった......昼、昼休憩とはこんなにも尊いものだったのか。ありがとう...休憩さん」
麗奈のような美少女がいるからだろうか、男性教師がいつも以上に張り切って教鞭を執っていた。そのおかげで、ただでさえ高い授業レベルが、通う学校を間違ってしまったのかと思うほど難易度の高いモノとなっていた。
優夜が周りを見渡すと生きる屍しかばねと見間違うほど弱ったクラスメイトが目に入る。
しかし、無理もないだろう。いつもの授業はただ黙々と板書をする退屈なだけの時間だったのだ。
しかしそれが今日は違う。
教科担当教師による1つ1つの物事を丁寧に丁寧に説明され、その説明が高校生に向けて本当に説明する気があるのかと思うような高レベルすぎる言葉の1つ1つから頭がパンクした者もいたほどだ。
(そんなに麗奈に良いとこ見せたいのかな。いい歳したおじさんがこんな若い女の子相手にな...)
「来たぞー......ってどうしたんだ、今のお前の目は死んだ魚の目みたいになってるぞ」
まだ午前の授業が終わったばかりだが、優夜の身体は既に限界に達しているように見える朝陽あさひからそう言われる。普段の優夜なら絶対に今の言葉にキレるが、今はそんな余裕はない。
「授業が......授業が難しくて着いて行けませんっ!」
優夜は確かに頭が良い部類だが、この学校の中では平均以下だ。クラスメイトの大半が何を言っているのか理解できないような授業が優夜に分かる...なんてことは起きなかった。
「は?今になってそんな事言う?この高校進学校だぞ、授業が難しいのは当たり前だろが。そうか、死んだ魚の目ではなくて死んだ人間の目だったか」
「ダメじゃん!それだと僕死んでるんだよ!上手いこと言ったみたいに言ってるけど全然上手くないからな!」
(馬鹿なのかコイツは!勉強は...勉強はできるはずなのにな)
朝陽は学年で上位10番に入る頭脳を持っている。
海外の有名大学に進学する人もいるようなこの学校で上位10番に入るのは秀才、または天才の類だ。
だが、本当に脳が死にかけていた優夜にとって、朝陽とのやり取りは久しぶりに身体に酸素を送り込んでいるようなものだった。
疲労が抜ける...とまではならないが軽い息抜きにはなった。
「それで、教えて欲しいんだけど。この隣の子誰?お前に隣なんていなかっただろ?」
一連のやり取りを終え、今まで空いていたはずの席に人がいるのを確認した朝陽は優夜の隣に座る麗奈のことを聞く。
「今日から転入してきたすずも『鈴森すずもり 麗奈れなです』...です」
優夜が紹介しようとしていたが、麗奈が自分から朝陽に名を明かす。
急に麗奈が会話に参加するとは思っていなかった優夜は、驚きから目を見開き、この後どうすればいいか判断に迷った。
だが、この場には1名馬鹿がいる事を忘れていた........
「よろしく!すずもさん!」
「おいおいおい!話聞いてた?なんですずもさんって名前になるの?さっき言ってたじゃん鈴森 麗奈ってさ!お前馬鹿なの?いや馬鹿だったわ!頭良い系馬鹿だったわ!」
「頭良いのか馬鹿なのかハッキリしてくれよ。それに冗談だってちゃんと聞いてたよ、鈴森さんね。一応優夜の唯一の友人やってる間宮 朝陽です。よろしく」
(僕はこいつが怖いよ...何考えてるか全く分からない)
「んっ...」
...........優夜の時とは違い麗奈は全く朝陽に興味がないのか、それだけで2人の会話が終わってしまった。
流石に第三者から見ても気まづい雰囲気が続いているため優夜も2人の間に入り助け舟を出す。
「朝陽、麗奈はバスケ部のマネージャーやるみたいだから、放課後毎日部活で会うことになるぞ」
「そうなんだ...」
麗奈が朝陽に興味がないのは分かったが、どうやら朝陽の方も麗奈に全く興味がないのか麗奈がマネージャーをやると伝えるも反応が薄い。
イケメンと美少女が2人揃っているのはとても絵になるが、イケメン系バスケ馬鹿と不思議系美少女は相性最悪なのか見ていてなぜか気持ち悪さを感じる。
「麗奈、朝陽はバスケ部のキャプテンなんだ。何か困ったことがあったらこいつに言えばなんとかなると思うよ」
「...困ったことが起きたから助けて欲しいです」
困ったこととはなんなのか、朝陽だけではなく優夜も疑問に思う。
しかし、優夜は嫌や予感を感じていた。
「今この状況がとても困ってます。何も知らないバスケ部のキャプテンと会話が続きません。あと学食に行きたいのですが場所が分かりません。優夜さん案内してください」
(あぁ...分かった麗奈は無自覚に棘のある言葉を吐きまくる不思議系棘棘美少女だったか)
「そういう事なら一緒に学食行く?僕と朝陽も今から学食に行こうと思ってたから麗奈も一緒に行こうよ」
優夜からしたら朝陽に奢らせるために是非とも学食に行きたいところだ。それに案内をするだけで、一緒に食事を取らないといけないという決まりもない。
「そちらが良いのなら、優夜さんにお願いしたいです」
「分かった。それじゃ行こうか...おい財布くん何ボーっとしてんだ行くぞ」
優夜の言葉で顔の血管が浮き出る朝陽だが、優夜はなぜ朝陽が怒っているのか分からなかった。
「俺は財布じゃねぇぇぇぇぇ!」
この時、朝陽からしたら本当に棘があるのは麗奈ではなく優夜なのではと思っていた。
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