▼【第十八話】 彼女だけでいいんだから。

 最近、レインというスマホのアプリで遥さんとやり取りをしている。一対一のチャットみたい感じで使っていると凄いドキドキする。

 今までやる人相手もいなかったから、インストールすらしてなかったけど遥さんとの連絡手段はこれになったので僕も使うことにした。

 ピンコンという通知音が、僕は待ち遠しくて仕方がない。

 今までスマホはただの時計代わりでしかなかったけど、今は片時も身から外せない。

 通知が来てないのにも関わらず、スマホを度々確認してしまう。

 それすらも楽しく感じれてしまう。

 特に夜は余り寝付けなくなったので、通知が来てないかと頻繁にスマホを確認してしまう。これは悪い癖だ。おかげで寝不足が加速している。

 遥さんと直接会うことは減ったかもしれないけど、遥さんと繋がっていると思うと僕はそれだけで嬉しくなれてしまう。

 ああ、そうだ。いつもは遥さんからの連絡ばかりだけれども……

 そう! そうなんだ! 遥さんがちょくちょく連絡くれるんだ!

 今朝はこれ食べました、とか、今は家でのんびりくつろいでいますよ、とか、そんな些細なことだけれども僕はそれだけで幸せになる。

 僕も何か送った方が良いかと思ったけど、何も知らせるような出来事が僕には何も起きやしない。

 僕が食べる物は遥さんが食べるようなお洒落なものではないし、家にいるときはずっとパソコンの前に座っている。

 何を知らせたらいいかすらわからない。

 一度、会社帰りに月が綺麗だったから、写真に撮って送ろうと思ったけど、スマホで撮ったらただの白い光る玉になってしまって諦めたっけ。

 あれ、えっと、なんだっけ? 何かしなくちゃいけないことがあった気がするけど……

 ああ、そうだ。水族館だ。

 デートに誘わなければ。

 今度は僕から誘わなくちゃいけない。

 いつが良いだろうか。えっと営業時間は二十時まで、でも入場は十九時で終わりか。さすがに平日は無理そうだ。

 それに平日ではせっかく選んでもらった服も着れないじゃないか。

 やっぱり土日か。遥さんの休日を奪ってしまうのは心苦しいが仕方ない。

 ああ、後、どうせなら食事も誘えってマッダーさんが言ってたっけ。

 水族館の近くにあるこのナンチャラツリーはどうだろう。僕でも知ってるくらいだ。

 ネットで調べてみたら、やっぱりレストランがある。

 ここでいいかな? 水族館もレストランも事前に予約ができるのか。

 遥さんにOKもらえたら予約をしておかないと。

 うん、割と近場だし、ここが良さそうだ。

 さて、なんて打ったら良いんだろうか。

 うーん、まずは土曜日と日曜日どっちがいいだろうか? あと何時ごろが良いのかな?

 水族館なんて行ったことないからどれくらいかかるかなんてわからないぞ。

 ギルドの皆がわからないことは、とにかくネットで検索しちゃえばいいって言ってたっけ。

 えっと、一周、一時間半から二時間、思ってたよりかかるんだな。魚を見るだけだというのに。

 で、ナンチャラツリーのレストランが…… えっと土日も十九時が最終入店なのか。

 じゃあ、十八時には着いていたいから、十六時に水族館を見始めればいいかな?

 どこ集合にすればいいんだ?

 僕はなるべく一緒にいたいけど、会話を続けられる自信も、その間を埋めることも、遥さんを楽しませることも、まだできない。

 なら、今は現地集合がいいのかもしれない。

 そう言ったことを、どうやって学べばいんだろう? ゲームなら攻略サイト見れば一発なのに。

 情けないが遥さんにそれも聞いてしまおう。僕は世の女性にもてたいわけじゃないんだ。

 

 遥さん、彼女だけでいいんだから。


 よし、レインを送るぞ。緊張してきた。

 まずは、えっと、水族…… 館に…… 行きませんか?

 と、土曜…… 日と、日曜…… 日、どちらが開いてますでしょうか?

 あと、出来ればその後、ナンチャラ…… ツリーで食事など…… どうでしょうか、っと。

 よし、よし、よし、送るぞ!! 送るぞ!! 送っちゃったぞ!!

 はぁはぁ、つ、疲れた、レイン一つ送るのに、こんなに緊張して疲れるとは思ってもみなかった。

 すぐにピンコンと返事が来る。

 土日は暇なのでどっちでもいいですよ。ナンチャラツリーって展望デッキでですか? 良いですね! と、返事が来た。

 こ、これはOKと言うことで良いんだな? よし、じゃあ、土曜日にしよう。少しでも早くデートをしたい。

 返事を返すぞ。

 なら…… 土曜日で良いですか? 良いなら水族館もレストランも予約を入れておきます、っと。

 すぐに返事が来る。絵文字? スタンプって言うんだっけ? それでOKと返って来た!

 よしよしよし!! やった、やったぞ!! 僕から初めてデートに誘ってOKもらえたぞ!!

 今日ぐらいはすべてを忘れてゆっくりと寝れる気がする。

 まずは予約だ。えっと…… 水族館の方はこれでOKかな。続いてレストランも…… うん、空いてる。大丈夫だ。これで予約もOKと。

 チケットはコンビニで受け取らないといけないのか。

 このコンビニは近くにないな、明日会社の帰りにどこか寄ってかないと。

 ああ、そうだ。遥さんに伝えないと。

 予約できました、と。

 すぐにスタンプで、多分喜んでいる画像が送られてくる。

 土曜日の十五時半に、ナンチャラツリー駅に…… 集合で良いですか? っと、送信!

 けど、すぐに返事は来ない。

 少しの間があって返事が返ってくる。

 その内容は、ナンチャラツリー駅なら一緒に行きませんか? だった。

 その誘いは凄い嬉しい。本当にうれしい。

 けど、僕は危惧していることを素直に伝える。

 今の僕では間を持たせられません、和歌月さんと会話を続けられる自信もありません、和歌月を楽しませることが今の僕にはできないので、現地集合とさせていただきました。

 そうレインに書き込んで返信する。

 ドキドキする。もちろんいいドキドキではない。遥さんがどう反応するか、僕には予想がつかない。




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