▼【第十七話】 僕も変わっていけばいいのか。
僕は今日、生まれて初めてデートというものをしたのかもしれない。
どれだけお金がかかるかわからなかったから、前日に銀行で百万円おろして、それを持っていったら、遥さんにひかれてしまった。
あの時、平坂さんに相談しておいてよかった、とも言ってたっけ。
じゃあ、平坂さんもある程度は事情を知っているのかな?
まあ、平坂さんと遥さんは仲いいんだろうし、筒抜けなんだろうか。少し気まずい。
どういう顔をして明日から接すればいいかわからない。
いや、まだ、ただの友達ということなんだから気にするも必要もないのだろうか?
わからない、わからないけど、先週の一週間は今日が本当に待ち遠しかった。
最近、人生が楽しい。
こんなにも毎日輝けることがあるだなんて思いも知らなかった。まあ、僕は輝いてないけど。
いや、気持ちだけは輝いている。たぶんだけど。
一息ついて、僕は今日買ってきた服を見る。
どれもこれも落ち着いた服で無難と言った感じのものだけど、僕の年齢を考えればこういった物のほうがいいのかもしれない。
僕が考えたブランドもののようなお洒落な服じゃなかった。その分、僕が考えているよりはだいぶ安かったけど。
なにより遥さんが選んでくれた服だ。似合っているかどうかなんてそれは二の次でいい。
彼女が僕のために選んでくれた。それだけで僕は嬉しい。
今度はこれを着て今度はデートに誘ってください、って遥さんは言ってたけど、デートってどこに誘えばいいんだ? わからない。
そうだ、今度こそギルドのみんなに相談しよう。
さすがに僕だけじゃ何も思いつかない。遥さんは誘ってください、って言ったんだから、僕が誘わなくちゃけない。
ああ、そうか、こうやって少しづつ僕も変わっていけばいいのか。
なれるだろうか、遥さんにふさわしい男に。
それにしても、今日は幸せな時間だった。
好きな人と買い物しただけだけど、こんなに楽しいことだなんて思いもよらなかった。
なら、次のデートはきっともっと楽しい。だって僕の気持ちはどんどん際限なく大きくなっていくだけだから。
ギルドのみんなに色々と意見を貰った結果、水族館が良さそうとなった。
水族館。
なんでも待ち時間がないから話さなくても良いんだとか。
たしかに僕は口下手だし、遥さんどころか、どの人とともそんなに話すこと自体がない。
それを考えると、やっぱり住む世界が違うんだな、って思ってしまう。
僕は遥さんと一緒にいるだけで幸せなんだけどな。
けど、彼女はどう思っているんだろう?
僕と一緒にいて彼女は楽しいんだろうか。いや、僕と一緒にいて彼女が笑うときは大体、僕が変なことをした時だけだ。
きっと彼女は僕と一緒にいても楽しくはないんだろう。
なれるだろうか? 変われるだろうか? 彼女を楽しませれるような男に僕が。
でも、もう今更、僕には彼女を、遥さんを諦めるだなんてことはもう無理だ。
諦めるには僕の気持ちはもう大きくなりすぎている。
なら変わるしかない。もう僕に選択肢なんてないんだから。結局、僕は進むしかできないんだから。
お風呂に入る。
遥さんに教えてもらったクレンジングオイルを使って顔を、鼻を洗う。
一週間足らずでもう鼻の黒ずみはほとんどなくなってしまった。
僕がどんだけ洗っても落ちなかったのに。こうもあっさりと落ちてしまうだなんて思わなかった。
浴室を出て乳液ってやつも塗る。
よくわからないけど保湿が良いらしい。
鏡を見る。
やっぱり冴えない顔の男がそこに映る。
ただ、以前よりは少しだけマシになったように思える。
遥さんはすごい。
こんな僕でさえ、変わっていける気がする。
この時間がやってきた。
最近、寝る時間が怖い。
ベッドに横になるとどうしても思い出してしまうから。
遥さんの部屋の洗面台に置いてあった、男物の歯ブラシと髭剃り用のシェーバーのことを。
遥さんは今フリーと言っていた。
前に付き合ってた人のものかもしれない。それならそれでいいんだ。
でも、それにしてはよく使われる位置に置いてあったのが、どうしても気になる。
あれは誰のものなんだろうか。
フリーって言ってたのは嘘で、本当は彼氏がいるんだろうか?
だとしたら僕に友達から始めましょう、だなんてことは言わないだろうし。
僕にはそのことを彼女に聞く勇気がない。
僕はもう一週間近く、ベッドに入るとそのことをぐるぐると考え始める。考え始めてしまう。
だけど、彼女にそのことを聞いたら、今の関係も終わってしまいそうで僕は怖くて聞けないでいる。
もう振られて終わろう、そう思っていた僕は居ない。
今の僕は希望を持ってしまったから。どこまでもその希望に縋りたいと、何をしても手放したくないと、そう思ってしまっているから。
もう諦めれるほど、この想いは小さくないから。
ずっと友達のままでもいい。少しでも彼女のそばに居たいと、思ってしまったから。
だから僕は考えたくもないことを、答えのでないことを、どんなに拭っても拭いきれないことを、僕は一人でぐるぐると考え続けてしまう。
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